『痴女の誕生』
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「美少女」から「男の娘」まで AVヒロインの歴史を俯瞰した一冊
[レビュアー] 都築響一(編集者)
こういう本がいままでなかったことがおかしいと思う。
著者の安田理央さんは雑誌のAVレビューからインターネットのアダルトサイトまで、「アダルトメディアの現場」に30年近く身を置いてきた。 スマホで無修正動画が無料で見られる現在、お金を出してAVを買う人なんているのかと思うかもしれないが、いまもDVD、配信あわせてAVは毎月2000とも4000ともいわれる新作が発表されている。毎年、じゃなくて毎月ですよ! 単純計算で年間にしたら3万点以上。書籍・雑誌など出版物の新刊点数が年間で8万冊なので、その半分近くということになる。AVが現在もどれほど巨大なメディアなのか、おわかりいただけるだろうか。
これまでもAV関連の書籍は数多く発表されてきたが、こんなふうにAVの誕生から進化(深化?)までを女優のキャラクター変遷、つまりは男たちの欲望の変遷という視点から俯瞰した報告はなかったはずだ。
本書はAVのヒロインたちを、こんなふうにカテゴライズしている――「美少女」「熟女」「素人」「痴女」「ニューハーフ/男の娘(こ)」。本書の最大の成果は、そうしたAVのヒロイン像が「女性を商品としてしか見ない男の作り手たちによる一方的な妄想の産物」なのではなかったこと。むしろ、こころの奥に隠されていた男の欲望を敏感にすくい取る女優や、風俗産業の女性たちの卓越した技術によって具現化された、いわば「見る男」と「演じる女」のコラボレーションによって生まれ、育まれてきたことを明らかにした点だ。
アダルトメディアは国会図書館にも揃っていないし、アダルトビデオはフィルムセンターにも収蔵されていない。これほど日本の大衆文化に決定的な影響を与えながら、こんなにも無視されるメディアが、現象が、ほかにあるだろうか。世界の最先端を走る「日本のエロ文化」から、アカデミズムはそろそろ目を背けつづけることを止めるべきではないのか。