ある英国人作家の何かと過剰な人生

レビュー

4
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

アウトサイダー 陰謀の中の人生

『アウトサイダー 陰謀の中の人生』

著者
フレデリック・フォーサイス [著]/黒原 敏行 [訳]
出版社
KADOKAWA
ジャンル
文学/外国文学、その他
ISBN
9784041049235
発売日
2016/12/28
価格
2,160円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

ある英国人作家の何かと過剰な人生

[レビュアー] 佐久間文子(文芸ジャーナリスト)

『ジャッカルの日』『オデッサ・ファイル』などの世界的ベストセラーで知られる作家の自伝。すべてのエピソードが数ページから長くとも十二、三ページで書き切られ、別の話題へと移っていく。人の何倍ものスピードで、人生のページが次々にめくられていくようだ。

 少し話を面白くしすぎているのでは、と思うほど何かと過剰な人生である。子供の頃に習得したフランス語とドイツ語は、それぞれ外国人と気づかれずに話せるレベルで、パリの亡命ロシア人貴族の姉妹に教わったロシア語、闘牛の調査をしながら覚えたスペイン語も流暢に話せる、ということからしてまず、虚構の中の人物のようである。

 通常より三年も早くパブリック・スクールの学業を終えるが、オックスフォードやケンブリッジには進学せず、空軍に入る。パイロットになるという夢を叶えた後は、もうひとつの夢であるジャーナリストの道へ。地方紙からロイター通信に転職。フランス語の能力を買われてパリ特派員になり、次いで冷戦下の東ドイツへ。さらにBBCに移るが、ビアフラ戦争の報道をめぐって上層部や政府の方針と対立、フリーランスとなり、小説を書く。ド・ゴール暗殺未遂を題材にした『ジャッカルの日』は、パリ特派員時代の取材経験がいかされている。

 誤報で第三次世界大戦の引き金を引きかけたり、東ドイツ要人の愛人と知らずに関係を持ってしまったり。伯爵夫人に情事の手ほどきを受けただの、東ドイツで目の覚めるような美人と寝たら相手は国家保安庁の職員だっただの、スパイ小説の主人公を彷彿させるエピソードの中には読者へのサービスではないかと疑いたくなるものもある。

 本書のタイトルは論議を呼ぶところだろう。ジャーナリストで作家でもあるフォーサイスは、つねに観察者という「アウトサイダー」だった。一方、本書で描かれる秘密情報部(MI6)との親しい関係は、情報交換や会食するだけでなく、東ドイツに行ってソ連軍の大佐に会い機密資料を受け渡したことも明かされる。これは「インサイダー」として一線を踏み越える行為だ。

 だが彼にとっての内部とは、外務官僚に代表されるイギリスの権威そのものなのだ。パブリック・スクール時代に芽生えた権威への反感は、ビアフラ報道で決定的なものになる。フォーサイスの最初の著書はルポルタージュの『ビアフラ物語』である。ビアフラ側を支持する立場からイギリス政府の失政を告発したフォーサイスには、赤道ギニア共和国でクーデターを首謀したという噂があるという。その答えは書かれていないが、そうした噂の流布もまた「アウトサイダー」であることの代償かもしれない。

新潮社 新潮45
2017年3月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

  • このエントリーをはてなブックマークに追加