アルミホイルは戦闘機の再利用

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アルミホイルは戦闘機の再利用

[レビュアー] 山村杳樹(ライター)

 一七九五年、ナポレオン政府は、一万二千フランの懸賞付きで「可能な限り最善の方法で、あらゆる種類の食品を保存する技術」を募集した。百五十万人もの遠征軍への食料補給という難問に直面していたからだ。これに応じたのが、料理人から菓子職人に転身していたニコラ・アペール。彼は、食品を瓶に詰め、湯煎するという方法を開発した。同じ頃、イギリスでブリキ缶が発明され、アメリカ南北戦争の頃には、缶詰は兵士の日常的な食事となった。野戦病院では大量の血漿を必要とするが、血漿を粉末状にするフリーズドライ技術が発明されると、米軍はこの技術を食品保存に転用した。

 戦場で兵士に配給される糧食を「レーション」と呼び、主食、調味料、飲み物までが一食分セットにされている。「レーション」は、軽量で携帯しやすく、常温で長期保存が可能で、なおかつ品質が保証される必要がある。米軍は、食品の加工・保存技術の研究開発を主導し、「レーション」にその粋を注ぎ込み、その成果は市販用食品にも転用された。

 米国の女性フードライターによる本書は、戦争の過程で開発された技術や食品の歴史を辿ることで、現代の食生活がいかに、軍事と密接に関係しているかを描く。著者が「アメリカ食料供給システムの中枢」と呼ぶ、米軍の「ネイティック研究所」では、食品保存の技術開発のみならず、食品包装素材、食品運送方法、サプリメント剤の研究などが、莫大な資金を投入して行われている。ここで生み出されたものは、例えば、「エナジーバー」と呼ばれる棒状の栄養強化食品、高温でも溶けにくいチョコレート、フリーズドライ食品、くず肉から作る成型肉、常温で長期保存ができるパンなどの他、サランラップ、レトルトパウチといった食品包装の新素材までに及ぶ。電子レンジ、フロンを使う冷蔵庫も、軍に起源をもっている。第二次世界大戦で残った十五万機の戦闘機を融かしてアルミの塊にしたものを「再利用」したのがアルミホイルだったとは、本書で初めて知った。

 著者は「第二次世界大戦は、戦地の兵士の食事が一般市民と著しく異なり、食べるものはほぼすべて加工食品からなるレーションだったという点で、過去に例のない戦争だった」という。そして、「陸軍に起源をもつ商品や陸軍の影響を受けている商品をすべて撤去したら、スーパーマーケットの棚の少なくとも半分は空っぽになってしまう」と指摘する。

 本書が描くスーパーマーケットの光景は、日本でもほとんど変わらない。すなわち、「科学と技術が軍の意のままに私たちのキッチンを乗っ取ってきた」のだ。

 本書の帯に「あなたは特殊部隊と同じものを食べている?」とあるが、読み終われば、この言葉が決して大袈裟でないことが了解できる。

新潮社 新潮45
2017年9月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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