[本の森 SF・ファンタジー]『徴産制』田中兆子/『ディレイ・エフェクト』宮内悠介

レビュー

5
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徴産制

『徴産制』

著者
田中 兆子 [著]
出版社
新潮社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784103353522
発売日
2018/03/22
価格
1,620円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

ディレイ・エフェクト

『ディレイ・エフェクト』

著者
宮内 悠介 [著]
出版社
文藝春秋
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784163908205
発売日
2018/02/07
価格
1,566円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

[本の森 SF・ファンタジー]『徴産制』田中兆子/『ディレイ・エフェクト』宮内悠介

[レビュアー] 石井千湖(書評家)

 田中兆子『徴産制』(新潮社)の舞台は、悪性インフルエンザの発生によって十代から二十代の女性の八十五%が死亡した未来の日本だ。国は人口問題を解決するため、十八歳から三十歳までの男性を対象に〈徴産制〉を施行する。招集された男性は〈産役男〉として、性転換の手術を受け、子作りに従事しなければならない。農家の一人息子のショウマ、エリート官僚のハルト、フリースクールの教師タケル、専業主夫のキミユキ、引きこもりのイズミ……立場が異なる五人の葛藤を描く。

 人気アイドルが自らすすんで女になって出産することで世論に影響を与えるとか、性転換ののちに出産すると国から報奨金をもらえるとか、特定の男性とパートナー契約を結べば居住や行動の自由が認められて生活も保障されるとか、奇抜な設定を支える細部がよく練り込まれている。性別が変わっても妊娠出産ができる身体になっただけで、外見はほとんど変わらない。ショウマが通りすがりの男に〈どけや、デカドブス〉と言われて、かつての自分も当然のように女性の容姿をジャッジしていたことに気づくところなどリアル。

 なんといっても恐ろしいのは、タケルの章だ。母の影響で弱者を救済することに使命感を持っていた彼は、若年女性の人口を激減させたインフルエンザで妻を失い、無気力になっていた。そして知り合いの少年の産役逃れを幇助したかどで、強制的に性転換させられ、刑務所のような施設に送られてしまう。タケルを待ち受ける差別と暴力は凄まじい。少し前にSNSで「女性専用の街に住みたい」という投稿が議論を呼んだことも思い出した。現在の日本を見て悲観的な想像を広げていくと、タケルが流れ着く村になるのだろう。

 しかし、著者の想像力は、光のあるほうへも向けられている。例えば、ハルトにとっての化粧、キミユキにとっての女装、イズミにとってのテーマパーク。エンターテインメント性の高い物語を通して性の問題を考えさせられる一冊だ。

 宮内悠介『ディレイ・エフェクト』(文藝春秋)は、あるロックバンドのメンバーの死の真相を探る「空蝉」、世界の外れで生きる男女の巻き起こす騒動を無力だが優しい神が見守る「阿呆神社」、芥川賞候補にノミネートされた「ディレイ・エフェクト」の三編を収める。

 表題作は、二十一世紀の東京に戦時中の東京が重なり合って見える謎の現象を描く。主人公は信号処理を専門とする技術者。かつて同じ場所で暮らしていた義理の祖母の一家を観察する。次第に大空襲の日が近づいてくる。妻は幼い娘に惨禍を見せるわけにはいかないと〈疎開〉を提案するが……。時代に流されてしまう人の悲しさが浮かび上がる終盤が素晴らしい。

新潮社 小説新潮
2018年5月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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