実は身近な社会保障法。――【自著を語る】『社会保障法』

対談・鼎談

4
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

社会保障法

『社会保障法』

著者
黒田 有志弥 [著]/柴田 洋二郎 [著]/島村 暁代 [著]/橋爪 幸代 [著]/永野 仁美 [著]
出版社
有斐閣
ジャンル
社会科学/法律
ISBN
9784641150560
発売日
2019/07/29
価格
2,090円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

実は身近な社会保障法。――【自著を語る】『社会保障法』

[文] 有斐閣

社会保障法の初学者に向けた入門テキストとして刊行された『社会保障法』。本書の刊行にあたって、著者の黒田有志弥(国立社会保障・人口問題研究所社会保障基礎理論研究部第2室長)、柴田洋二郎(中京大学法学部准教授)、島村暁代(信州大学経法学部准教授)、永野仁美(上智大学法学部教授)、橋爪幸代(日本大学法学部准教授)の5人にチャットで本書ができるまでを語っていただきました(2019年8月16日チャット会議)。

1 本書ができるまで

橋爪幸代(以下:橋爪) それでは早速ですが、本書をつくろうとなった経緯から話していきましょうか。

柴田洋二郎(以下:柴田) 2014年7月に、永野さんからメールをいただきました。そこには、「学生にすーっと『理解できた』と満足を得てもらえるような教科書の執筆」っていうコンセプトが書いてありました。当時、留学中だったのですが、帰国後の楽しみができたと思ったことを覚えています。

永野仁美(以下:永野) そう。ストゥディアシリーズから「社会保障法」も出しましょうというお話があったんです。だいたい同じぐらいの年齢の社会保障法研究者が集まって、ということでした。

黒田有志弥(以下:黒田) 執筆メンバーが決まる過程では岩村正彦先生(東京大学名誉教授)も関わってくださったと聞きました。

島村暁代(以下:島村) 岩村先生は、各執筆者がそれぞれの専門分野を書く、と想定されたようでしたけど、全く変わりましたね!

黒田 5人で話し合う中で決まったのですが、専門外の章を担当した方が、他の人が意見を言いやすいのでは、ということでした。

橋爪 私は、年金を担当することになったときには血の気が引きました。執筆中、ずっと師匠の顔が浮かんでいました。

永野 堀勝洋先生(上智大学名誉教授)のご専門ですものね!

柴田 黒田さんには、結局、章を3つも担当いただくことになってしまいましたよね。

島村 確かに! 第2のセーフティネットを個別に章立てするのは新しいと思っていました。

黒田 第2のセーフティネットは、何とか制度の説明に終始しないようにしたのですが、結局、ほぼ制度説明になってしまったところが心残りです。

橋爪 柴田さんも、福祉全般と広いところをコンパクトにまとめるのは大変だったのではないでしょうか。

柴田 そこは、共著者のみなさんを頼りにしようと思っていました。児童福祉なら橋爪さん、障害者福祉なら永野さんがいらっしゃいましたので。内容面でも、分量面でも。

2 本書の特徴

黒田 先ほども出ましたが、各執筆者が専門外の章を担当したことが本書の特徴の一つでしょうか。

橋爪 確かに専門分野だと、ついついこだわってしまいますよね。逆に専門分野以外のところを担当したので、講義を聞く側に近い気持ちで書けた気がします。その分、分かりやすく伝えるために書く順番には苦心しました。

永野 各章の構成は、最終的に、全部の章でだいたい同じになるよう工夫をしましたね。各制度を比較しやすいように、という意図だったと思います。 それから、特に橋爪さんの担当章では、可愛らしい図表がたくさん使われています。これまでの授業での経験から必要性を感じていたからでしょうか?

橋爪 私は絵の才能が皆無なので、できれば図とか書きたくないのですが、文章だけだと伝わりづらいので、毎年、黒板に下手な図を書きながら悩んでたんです(笑)。

永野 絵の才能については、原稿段階のラフに書かれた図表を見た私としては、納得(笑)

島村 今の学生さんは、活字が苦手という話がありましたよね。社会保障法だと、やたらとたくさん漢字が並ぶ制度名も多いですから、絵で和ませるのは良かったですね。

柴田 モデル図というのも使ってますよね? それはどういう?

橋爪 年金って、学生にとっては、まだまだ遠い存在なんですよね。だけど、誰に何が起こってというストーリーとして理解すると入っていきやすい。でも、お話を書くと分量が増えるので、他の方法で描けないかなぁと思ったんです。

永野 実は、社会保障法は、自分や周囲の人に関係するものですしね!

柴田 帯にも「実は身近な社会保障法。」って書いてありますよね。私、このフレーズ好きなんです。

黒田 社会保障法だからというのもありますよね。「実は身近な○○法(自主規制)」とか言われても……。

3 実際の授業での活用法

黒田 本書は、社会保障法の初学者に向けた入門テキストという位置づけなので、基本的に本書は予習で活用してもらって、説明を補足するという形で使っていこうかと思っています。

島村 私は、最後の「CHECK」を宿題にして、講義の復習に使うことを考えています。執筆中にも、最後に「CHECK」で訊くんだから、本文で、しっかり明確な回答を用意しないといけない、ということになって、本文を分かりやすく書き直したのを覚えています。

橋爪 あぁ、そうそう。「CHECK」を作ったことで、自分の原稿をチェックすることになるという……。

永野 章の最後の「CHECK」や「考えてみよう」、「RESEARCH」等のコーナーの活用も、この教科書の特徴かなと思っています。

柴田 本文以外のサブコンテンツを複数用意したことも、特徴の一つですよね。

橋爪 私は、ゼミで「RESEARCH」や「考えてみよう」を活用してみようと思ってます。応用問題にチャレンジしてもらうようなプログラムをゼミの中で考えようかなぁ、と。

島村 「RESEARCH」と「考えてみよう」の違いってなんでしたっけ?

永野 「考えてみよう」では、必ずしも正解があるわけではないようなことについて、問いかけをしました。

柴田 根源的な問いというか、価値観によるというか。

橋爪 正解があるわけではないところなので、自分はどう考えるかを深めてもらいたいですよね。

永野 社会保障の仕組みは、各国によっても異なりますし、いろんな形がありうる中で、今の日本ではこうなっている、という特徴もありますので、学生さんには、柔軟にたくさんのことを考えてほしいなぁという希望を持っています。

橋爪 考える上では、「はじめに」と「おわりに」も、全体に通じるベースになる概念に触れていたりして、特徴的ですよね。

永野 社会保障法学の役割について、島村さんが書いています(3頁)。①制度の正確な把握・理解、②紛争が生じたときの解決手法の提示、③これからの社会保障政策を考える、の3つだったと思います。この3つをこの教科書で完璧にカバーするのは、なかなか困難でしたが、①のベースをこの教科書でつかんでもらって、「考えてみよう」や「RESEARCH」のコーナーを使って②③をしてもらえたらと思っています。

4 執筆中の苦労①~海外とのやり取り

柴田 執筆中、永野さんはフランスへ、島村さんはブラジルに留学されましたよね。打ち合わせの時間(時差)もそうですし、資料収集、日本の法制の動向を把握することなど大変だったと思いますが、どうされてましたか? 留学先で「日本のこと」を執筆しなければならない機会は、今後増えていくと思いますが……。

島村 私は、黒田さんたちに情報収集をお願いした記憶があります。

永野 私はボルドー大学に留学しましたので、その間は、笠木映里さん(ボルドー大学)の本棚を頼りに執筆させて頂きました。幸い、笠木さんは、医療制度の専門家ですし!

島村 時間については、ブラジルは日本と午前と午後が逆さまなので、ある意味やりやすかったです。日本時間の午後は朝方なのでオサラバし、永野さんがフランスから参加されましたよね。

柴田 確かに、日本時間の夕方になると、島村さんの疲労感(眠気)は伝わってきました。

島村 スカイプで国際的にも簡単に会議できるようになったのはとっても良いことですが、やっぱり対面がやりやすいですよね。みんながどんな顔をされているのか空気が読めず大変でした。

永野 対面がやりやすいのは、本当にその通りだと思います。会話に入るタイミングと、実は良く聞こえていない議論と……なかなか難しいです。

5 執筆中の苦労②~文体

島村 黒田さん、最初は文体が硬かったですよね。もっとやさしく って。

黒田 個人的には柴田さんの文章の方が硬い気がしているのですが……。

柴田 あ、やっぱり言われた。打ち合わせのときもよく言われましたもんね。永野さん・島村さん→黒田さん、その後、黒田さん→私、みたいな。

橋爪 それを静かにみつめる私。

黒田 漢字が多いのは認めます。

柴田 これまで研究してきた分野とは異なる分野となると、言葉・表現の加減は難しいな、と思いました。

橋爪 あ、それはそうかも。簡単な表現にすると、不正確になりやすいんですよね。

黒田 自分の普段書く文章とだいぶ違うし、内容についてもどうしても言葉を費やしたくなってしまうんですよね。自分の中では「わかりやすく=細かく」になってしまってましたし。

永野 黒田さんの原稿がストップしていたので、理由を聞くと、「どうして○○は必要なの?」という副題が決められない、という回答でした。確かに、黒田さんのイメージからは少し遠い副題になりましたが、本全体の雰囲気は、柔らかい感じになって、とてもよかったと思っています。

島村 章の副題については全員で案を出して、どれを採用するか、誰の案かを示さずにコンペしましたよね。橋爪さんの勝ち!

黒田 最下位で実は結構へこみました。

永野 最終的には、副題も、学生に問いかけるようなものとなってとてもよかったです。

島村 学生目線に立った素朴な疑問という観点でとてもよかったです!

6 本書の気に入っている点

柴田 図表を使っているというのは本書の特徴ですが、先ほどもでてきたように絵(イラスト)の使用というのは、本書のユニークな点だと思っています。私が地味に好きなのは、174頁の力こぶのイラスト、それから57頁のイラストも、被保険者の立場として、保険料納付と年金受給権の関係をよく示しているように思います。

島村 私は図を入れてわかりやすくしつつも、文章でおさえるべきところはおさえてメリハリのある仕上がりになっているところが気に入っています。本当におさえきれているかについては今後の検証が必要ですがね。

黒田 法学的アプローチについて書いている点と、紛争解決についてコンパクトにまとめてある点が気に入ってます。基礎的な教科書ではあまり書かれていることがないので。あとは自分の執筆部分だと、通勤の逸脱、中断の図はちょっと気に入っています(87頁)。

橋爪 私はやっぱり「考えてみよう」のコーナーかな。アクティブラーニングが推奨されてますが、なかなか講義だと、そこまでやりきれないところがあります。でもこれをうまく活用して、授業を受けながら、聞くだけじゃなくて、考えてほしいなぁと思っています。

永野 比較的年齢の近い5人が集まったことで、よく話し合い、協力し合いながら、本全体の統一性を測りつつ執筆できたことが、とても良かったです。章立てを統一したり、「RESEARCH」や「考えてみよう」、「CHECK」のコーナーを設けられたのも、緊張しないで議論ができる五人だったからかなと思っています。そして、学生にとって、当初の目的の通り、社会保障法について「すっと理解ができて」、加えて、いろいろと考えることができる教科書になっていると良いなと思っています。

有斐閣 書斎の窓
2019年11月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

有斐閣

  • このエントリーをはてなブックマークに追加