<美しい本>の文化誌 装幀百十年の系譜 臼田捷治(しょうじ)著

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〈美しい本〉の文化誌 装幀百十年の系譜

『〈美しい本〉の文化誌 装幀百十年の系譜』

著者
臼田 捷治 [著]
出版社
Book&Design
ジャンル
芸術・生活/芸術総記
ISBN
9784909718037
発売日
2020/04/17
価格
3,300円(税込)

書籍情報:openBD

<美しい本>の文化誌 装幀百十年の系譜 臼田捷治(しょうじ)著 

[レビュアー] カニエ・ナハ(詩人、装幀家)

◆本を彩るクリエイターに光

 不安な時世に、紙の本を手にとり頁(ページ)をめくるひととき、ほっとする。本というものの懐の深さに改めて気づき始めている。折しも世に出た本書は、装幀(ブックデザイン)史にまつわる書籍を幾つも手がけてきた著者が、その豊穣(ほうじょう)な知識と幅広い視野でもって、夏目漱石以降百十年間、この国で刊行されてきた<美しい本>の系譜を素描する。

 英国留学中に造本への関心を高めた漱石は帰国後、今でいうアートディレクターの感覚で自身の本にデザインへのこだわりを発揮した。最初の小説『吾輩は猫である』では、新進の画家・版画家だった橋口五葉(ごよう)を装幀に抜擢(ばってき)。以降、五葉は日本初の装幀家として活躍する。名作『こころ』では漱石自らが装幀を手がけ、後の村上春樹『ノルウェイの森』などへと連なる「著者自装」の系譜に先鞭(せんべん)をつけた。当初、画家・版画家といった美術家か著者自身、あるいは編集者の手によった装幀の仕事は、やがて専門の装幀家・ブックデザイナーが主に担うようになり現在に至る。

 著者は「多様な人材の装幀へのかかわりがあったからこそ装幀文化が花開いた」とし、専門の装幀家のみならず、小説家や詩人の自装本、名編集者による装幀本、さらには建築家や音楽家、ファッションデザイナーらによる装幀本に触れ、多彩な<美しい本>の在り方を見せる。併せて、紙や書体(フォント)、文字組みのデザインについても、歴史から現状までを丁寧に繙(ひもと)く。装幀史を彩ってきた美本にかかわった多様なクリエイターたちの仕事を、著者は敬意と愛情にみちた筆致で描写し、彼らが語った重要な言葉たちを蒐集(しゅうしゅう)する。<美しい本>をめぐる人物列伝としても、証言集・名言集としても、貴重なものとなっている。

 本は「良き読み手がいれば大切な存在として永い命を保ち、次代へと引き継がれていく」とは著者の言だが、一冊の中に三百五十冊もの本の、それらの制作にかかわったさらに多数の人たちの熱や体温を綴(と)じ込めた本書自身もまた、永く引き継がれるべき<美しい本>だ。

 ( Book&Design ・ 3300円)

1943年生まれ。雑誌『デザイン』元編集長。著書『装幀時代』など。

◆もう1冊

小林真理著『画家のブックデザイン』(誠文堂新光社)

中日新聞 東京新聞
2020年5月31日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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