国道3号線 抵抗の民衆史 森元斎(もとなお)著

レビュー

10
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国道3号線

『国道3号線』

著者
森 元斎 [著]
出版社
共和国
ジャンル
社会科学/社会科学総記
ISBN
9784907986735
発売日
2020/08/15
価格
2,750円(税込)

書籍情報:openBD

国道3号線 抵抗の民衆史 森元斎(もとなお)著

[レビュアー] 栗原康

◆民衆蜂起 土着のエネルギー

 コロナだよ。ウイルス的な生が人間の死生に揺さぶりをかけている。生命体なのに生物じゃない。感染、増殖、死滅を繰り返し、またとびうつって変異していく。およそ人間の主体というものは生/死の区分を前提とし、自らの生を自ら管理するものとされてきた。自らの意思で、生きている時間を有効に使う。だがそんなものは無に突きおとされた。生死をとびこえ生きるのだ。

 さて、本書の舞台は九州、国道3号線である。鹿児島から熊本、そして北九州へ。日本近代化の礎として過度に開発を進められ、めちゃくちゃにされてきた地域である。人柱だ。著者の森元斎はその周辺でたちあがった民衆蜂起をとりあげ、その土着的なエネルギーを汲(く)みとろうとしている。

 たとえば水俣病。作家の石牟礼(いしむれ)道子は水俣病患者と接して、自らの死生を揺るがされた。死に瀕(ひん)していた被害者はかわいそうな被害者などではなかった。体がひん曲がり、悶(もだ)え蠢(うごめ)くその身ぶりがとてつもなく美しい。言葉ならざる言葉だ、人間を超えた言動だ、この世ならざる表現だ。

 石牟礼が無をくぐり、生でも死でもない世界を生きはじめる。ひとならざるものが見えてくる。あの世でもこの世でもない、もう一つのこの世に誘われる。その力を誰も拒むことはできない。意思の問題ではない、誘われてしまっているのだから。「しゅうりりえんえん」。その音を聴いてしまったら、誰もが悶えて加勢してしまう。すでに死んでいる者たちも駆けつける。怨、怨、怨、されど怨だ。

 いまそういう力を発揮しているのはBLACK LIVES MATTERだろうか。蜂起する民衆の身体に無が見える。自分の意思ではない、死者たちからの雷鳴のような呼びかけに身を震わせて、生死をとびこえ暴れるのだ。たとえ死んでも、あの支配者たちを恐怖に陥れてやる。次は火だ。鎌をもった婆が叫ぶ。無を造形せよ。Abolish the Police! 国家も資本主義も人種も階級も、人間の主体すらも廃絶してやれ。我々(われわれ)は火にガソリンを注ぐ。ビバ、アボリショニズム!

(共和国・2750円)

1983年生まれ。長崎大教員、哲学・思想史。著書『アナキズム入門』など。

◆もう1冊

『BLACK LIVES MATTER黒人たちの叛乱(はんらん)は何を問うのか』(河出書房新社)

中日新聞 東京新聞
2020年9月13日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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