リニア中央新幹線をめぐって 山本義隆著

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リニア中央新幹線をめぐって

『リニア中央新幹線をめぐって』

著者
山本義隆 [著]
出版社
みすず書房
ジャンル
社会科学/社会
ISBN
9784622089964
発売日
2021/04/13
価格
1,980円(税込)

書籍情報:openBD

リニア中央新幹線をめぐって 山本義隆著

[レビュアー] 松村洋(音楽評論家)

◆脱資本主義・脱成長を主張

 以前、私は鉄道が登場する歌を集めて日本近現代史をたどる本を書いた。その最終章で、東京〜大阪間のリニア中央新幹線計画と原子力発電について論じた。その内容と本書の問題意識が見事に重なっていることに驚いた。

 著者は、技術、社会、経済、環境、政治など、さまざまな観点から、現在進行中のリニア中央新幹線計画がはらむ問題点を指摘している。リニア車両が発する強力な電磁波の影響については、もっと突っ込んで語ってほしかったが、重要な点がほぼ網羅され、簡潔に読みやすくまとめてある。だが、本書の真価は、リニア新幹線批判そのものよりも、それを踏まえた最終章の近代社会批判にある。

 著者によれば、日本政府は明治以来、「国益」と「公益」(じつは「大企業の発展と都市部の繁栄」)のために自然環境も地域共同体も犠牲にしてきた。そして戦後の日本は「戦時下の総力戦体制の遺産をもとに、ふたたび『技術立国・経済成長・国際競争』をスローガンにして『戦後版の総力戦』としての経済成長を成し遂げ」たのだという。それは、資源とエネルギーを大量消費し、地方を犠牲にする中央一極集中の経済成長だった。リニア新幹線計画とそれが前提とする原発も、そうした歴史の流れの中にある。

 その根底にあるのは、資本主義の本質である不断の経済成長志向だ。それが今、地球全体にさまざまな困難をもたらしている。現在の“コロナ禍”も、限りない経済成長志向が生んだ自然環境破壊やグローバル化と密接に関係しているだろう。

 ポスト・コロナ時代のために問われるべきなのは、たんなる「個人の心構えや生活習慣」などではなく、「社会的な構造そのものの変革」なのだと著者は指摘し、広井良典の「ポスト資本主義」論などに触れつつ、脱資本主義・脱成長への道を主張している。限られたページの中で詳細な議論は望めないが、リニア新幹線批判から導き出された脱成長社会への展望は、至極まっとうに思える。小著だが、大きな文明論の本である。

(みすず書房・1980円)

1941年生まれ。駿台予備学校勤務。著書『知性の叛乱』『磁力と重力の発見』など。

◆もう1冊

山本義隆著『近代日本一五〇年 科学技術総力戦体制の破綻』(岩波新書)。大国主義ナショナリズムと科学技術が牽引(けんいん)した日本の近代化を詳しく考察。

中日新聞 東京新聞
2021年5月16日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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