<東北の本棚>子の代理人 真摯な努力
[レビュアー] 河北新報
「皆さん一人一人が子どもの事実上の代理人になるのです」。石巻市大川小の津波訴訟で、実際の代理人である吉岡和弘弁護士(仙台弁護士会)らが遺族に語り掛けた方針だ。吉岡氏は本書で、この方針が学校幹部や市教委に組織的過失があったと認定した2018年の仙台高裁判決につながったとつづる。わが子を亡くして沈み込む遺族に行動してもらうことで「水底(みなそこ)から掬(すく)い上げ」た上、画期的判断を引き出した背景を記した点で価値ある一冊と言える。
訴訟では仙台地裁、高裁とも市と宮城県の賠償責任を認めたが、著者らは大川小の教員個人の過失認定にとどまった地裁判決を「将来の予防的効果の面から不十分」と指摘。現場の教員だけでなく市教委や市長部局を含めた自治体が一丸となり、平時から児童・生徒の命を守ることが責務だと明示した高裁判決こそ今後の社会を変える上で重要になると喝破する。
このように、高裁判決は自然災害で組織的過失による賠償責任を認めた初の裁判例となったが、本書はその裏に遺族の真摯(しんし)な努力があったことを明かす。提訴前の市教委側の保護者説明会では詳細なやりとりを重ねて書証に。地縁や血縁を頼って証人を探したり、裁判官による現地視察のお膳立てもしたりした。「子を失った親がせめてできることは、子の代理人になって行動すること。その行動が落ち込んだ気持ちを奮い起こす契機になる」と、この種の大規模事件では大弁護団を組みがちなのに吉岡、斎藤雅弘両氏のみで受任し、遺族を動かした。
「高裁判決がなかったら、多くの犠牲者を生んだ震災は社会に何も教訓を残さなかった」。21年にあった訴訟報告会で講演したという法学者の発言は、代理人として闘い抜いた遺族への最大級の賛辞だ。後は社会の側がどう変わるかが問われているのだろう。(桜)
◇
信山社03(3818)1019=1980円。