<書評>『戦争とデザイン』松田行正 著

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戦争とデザイン

『戦争とデザイン』

著者
松田行正 [著]
出版社
左右社
ジャンル
芸術・生活/芸術総記
ISBN
9784865280937
発売日
2022/07/25
価格
2,750円(税込)

書籍情報:openBD

<書評>『戦争とデザイン』松田行正 著

[レビュアー] 太田和彦(作家)

◆国家が駆使した画像分析

 国家が戦争を推進するためにさまざまに駆使したデザインを豊富な図版で示した書。

 「ナチのシンボルマークの最大のデザイン的功績は、ハーケンクロイツ(カギ十字)を四十五度傾けて、赤地のなかの白い円に黒で収めたこと。傾けることで回転を得て、躍動感とともに『めまい』もやってくる」

 その長大な垂れ幕は、夕方の大規模集会や軍隊行進の背景を埋め尽くして国民の目をふさぎ、腕章は恐怖の的となって、膨大な犠牲で国家を壊滅させた。

 ロシア革命で共産勢力が「赤」をシンボルカラーとしてから共産主義者は世界中で「アカ(Red)」と呼ばれるようになった。

 毛沢東を「紅司令」と呼び、守るのは「紅衛兵」、赤表紙の「毛沢東語録」は総人口の八倍印刷され、国中を赤一色にしたが、文化大革命は大失敗に終わった。

 プーチンが始めた戦争は、ウクライナ侵略を正当化するシンボルに「Z」を据え、ウクライナにとっては人と都市を破壊する悪魔のシンボルとなった。ナチのカギ十字をふたつに分けて回転して重ねると「Z」になる風刺画はプーチンとナチスを重ね合わせた最高の皮肉だ。

 著者の冷静な図像分析は、キリスト教や中世十字軍、また国際赤十字などの「十字」考証にも及ぶが、プーチンを狂的蛮行者と断定する強い反戦姿勢が信頼できる。

 これは私見だが、戦争の対極にある平和の象徴・オリンピックも国家事業としてデザインは駆使される。一九六四年の東京大会では、当時力をつけていた若手デザイナーたちの手弁当仕事で日本のデザイン力を世界に知らしめて誇らしかった。しかし昨年の第二回は開催の意義もあいまいなまま強行され、今も続く数々の不祥事とともに、広告会社に主導されたデザインはじつにみじめだった。

 デザインの影響力は大きく、その主体が国家であるときは特に注意しなければならない。「国旗の乱舞には戦争の気配がする」という指摘は鋭い。

(左右社・2750円)

1948年生まれ。グラフィック・デザイナー。『デザインってなんだろ?』など。

◆もう1冊

半藤一利、保阪正康著『そして、メディアは日本を戦争に導いた』(文春文庫)

中日新聞 東京新聞
2022年9月4日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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