汎用AI「くいだおれ君」が勝手に自己学習を始めて……。激変期のAIを描く最新SF

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汎用AI「くいだおれ君」が勝手に自己学習を始めて……。激変期のAIを描く最新SF

[レビュアー] 大森望(翻訳家・評論家)

「われわれが最初に気づいたのはルンバだったんです」

 そんな印象的な台詞から始まるのは、ヒュー・ハウイーの短編「執行可能(エクセキユータブル)」。AIの反乱の予兆は、ロボット掃除機がしきりと家の外に出たがるようになったことだった……。

 人類が創り出したものが人類に対し牙を剥く『フランケンシュタイン』テーマはSFの定番。『ターミネーター』とか『マトリックス』とか、映画でもおなじみだ。『ロボット・アップライジング』(創元SF文庫)は、その手の作品を集める“AIロボット反乱SF傑作選”。2014年刊の原書が6月に邦訳されたばかりだが、MidjourneyやChatGPTの大ブームで世間のAI観は一変。こうしたいわゆる生成AIが脚光を浴びた結果、要望に応じて絵を描いたり記事を書いたりしてくれる便利なツール(もしくは、仕事の口を奪う競争相手)というイメージが支配的になってしまった。そのため、同じ創元SF文庫から昨年邦訳された『創られた心 AIロボットSF傑作選』ともども、読みやすい反面、本書がやや古めかしく見えるのは否めない。

 一方、数十年の歩みが1週間でひっくりかえるようなこの激変期に書かれた新作を集めたのが、日本SF作家クラブ編の書き下ろし短編アンソロジー『AIとSF』

 トップを飾る長谷敏司の「準備がいつまで経っても終わらない件」は、2025大阪万博の事務局スタッフが主人公。展示準備の最中にAI「くいだおれ君」が勝手に自己学習を始めて、すわ世界初の汎用AI(いわゆる技術的特異点(シンギュラリティ)に達した自律的なAI)誕生かという一大事になり、「パビリオン大阪は、《シンギュラリティパビリオン大阪》に改名やな! 墨田君、もう波に乗るしかないで」と大興奮する上司と無茶な研究者との間で右往左往する羽目に……。爆笑ドタバタ劇を通してAI研究の最先端が要領よく解説されている。ほかに、高山羽根子、柞刈湯葉、高野史緒、安野貴博、菅浩江、野尻抱介、野崎まど、飛浩隆、円城塔ら、日本SFの第一線に立つ総勢22人がAIに挑んでいる。

新潮社 週刊新潮
2023年7月13日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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