「文房具」が静かなブーム、アナログ回帰? 写真満載の図鑑

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ときめく文房具図鑑

『ときめく文房具図鑑』

著者
山﨑 真由子 [著]/今野 光 [写真]
出版社
山と溪谷社
ジャンル
自然科学/生物学
ISBN
9784635202381
発売日
2017/01/20
価格
1,650円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

一杯やりながらページを繰れば御機嫌になれる一冊

[レビュアー] 立川談四楼(落語家)

 文房具が静かなブームなのだという。多くの人がスマホを始めとする電子機器を持ち、用件をメールでやりとりし、年賀状ですら肉筆から縁遠くなっている。ブームの裏にはその反動、アナログへの回帰があるのではないかと思っている。

 私はスマホでツイッターやメールを打つものの、断然肉筆派である。現に本欄の原稿もシャープペンシル、uniの2Bの芯で書いている。消しゴムはMONOだ。本書の53ページにMONOは1969年以来のロングセラーとしてあり、何だか自分を肯定されたようでとても嬉しい。

 図鑑であるから写真が満載で、今野光氏が撮影し、著者が文章を添える体裁だ。つい見入り、読みふける。懐かしのトンボ鉛筆が載っている。ものごころがついたころこの鉛筆を使い、手にもよく馴染んだっけ。こうして写真を眺めるとよく分かる。オリーブグリーンの軸が子供に安心感を与えたのだと。

 図工で使う色鉛筆の他に、まだあったのかと赤青鉛筆に目を引かれた。赤は朱色、青は藍色で、一本で二色使えるあれだ。さて何に使ったのだろうか。長じて競馬場等へ行き、予想屋と称する人が耳に挟んでいるのは目撃したが。

 手動式鉛筆削りも紹介されている。そう、肥後守(ひごのかみ)の後にこれが登場したのだ。掌に収まるサイズで、クルクル回したものだった。ああ、削りカスの匂いまで甦ってくるではないか。

 変わらない文房具がある。いわゆる定番というやつで、一方に驚くほど進化を遂げた文房具があり、もちろん初めて見る文房具もある。仕事や趣味により、自ずと文房具も変わるのだ。私などやはり筆記用具とその周辺、原稿用紙、ふせん、スケジュール帳、ハサミ、クリップといったものを丹念に眺める傾向にある。

 ふと思いつき、一杯やりながら本書のページをめくってみた。いやこれが御機嫌であった。健やかな眠りのためにもお勧めの一冊なのである。

新潮社 週刊新潮
2017年3月9日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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