2017年を書評で振り返る シャンシャン、藤井四段、北朝鮮ミサイル、元SMAP、カズオ・イシグロまで[後編]

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 2017年の出来事を書評で振り返るこの企画。1月から5月を振り返った前編に引き続き、6月からの後編は明るい話題でスタートです!

■6月12日 上野動物園でパンダ誕生

 東京上野動物園のジャイアントパンダ「シンシン」に赤ちゃんが誕生しました。その後9月には「シャンシャン」と命名され、12月19日からは抽選による一般公開も始まりました。観覧の申込みは殺到し、抽選倍率は最高で144倍にまで達しました。残念なことに新たに生まれたジャイアントパンダの所有権も中国にあり、シャンシャンは生後24ヶ月で中国に返還される予定です。中国がいかに愛くるしいパンダを外交に利用しているのかを研究した一冊を出口治明さんが紹介しています。またシャンシャン以外にも会いにいけるパンダやパンダグッズを紹介したパンダ尽くしの一冊も発売されました。

〈『国宝の政治史』レビュー〉
レビュアー:出口治明(ライフネット生命保険会長)

(略)本書は、故宮文物とパンダという中国を代表する「国宝」を取り上げ、その政治利用の歴史を論じたものである。
https://www.bookbang.jp/review/article/541236

〈『パンダぴあ』リリース〉
「まるごと1冊“パンダ”だらけのムック『パンダぴあ』が発売」

上野動物園の赤ちゃんパンダ「シャンシャン」の成長記や現在日本で暮らす9頭のパンダを紹介するほか、パンダの基礎知識、パンダグッズやパンダグルメまで、80ページまるまるパンダ尽くしの内容となっている。
https://www.bookbang.jp/article/542455

■6月15日 テロ等準備罪が成立

 テロ等準備罪を新設する『組織犯罪処罰法改正案』が参院本会議で可決され成立しました。与党は法務委員会での採決を省略する異例の中間報告を行い、本会議での採決を強行しました。担当大臣のあやふやな答弁や強引な議会運営に批判の声もあがりました。またいわゆる共謀罪が施行されると、捜査機関による乱用や人権侵害も懸念されています。犯罪の実行行為より前の「罪を犯しそう」という段階から通信の傍受が行われ、無関係な盗聴が拡大する恐れもあります。何度もテロの被害に遭っているアメリカではどのように犯罪の事前捜査が行われているのでしょうか。米国の手法を解説した一冊に描かれているのは今後の日本の姿なのかもしれません。

〈『犯罪「事前」捜査 知られざる米国警察当局の技術』レビュー〉
「明日の日本を予言するアメリカ事前捜査最前線」レビュアー:一田和樹(サイバーミステリ作家)

(略)本書ではこれまで語られることの少なかったアメリカの法執行機関の最新の捜査技術、特に「事前」捜査の実態についてまとめている。…
https://www.bookbang.jp/review/article/540903

■6月26日 将棋の藤井聡太四段、公式戦29連勝 30年ぶり新記録

 最年少の将棋棋士藤井聡太四段(当時14歳)が竜王戦本戦1回戦で増田康宏四段を破り、公式戦29連勝の新記録を達成しました。2016年12月のデビュー以来無敗の快進撃を続け、歴代最多連勝記録を更新しました。その6日前20日には現役最高齢棋士の加藤一二三九段が引退しました。加藤九段は藤井四段が登場する前までは史上最年少棋士の記録を保持していました。加藤九段は藤井四段のデビュー戦の相手も務めていました。将棋界の2人の天才の運命がクロスした6月となりました。藤井四段の受けていたといわれる「モンテッソーリ教育」を紹介した一冊や、藤井四段を髣髴させる天才棋士が登場する将棋ミステリー、加藤九段による藤井四段評の掲載された一冊など、出版界も大いに盛り上がりました。

〈『モンテッソーリ流「自分でできる子」の育て方』ニュース〉
「藤井四段も受けていた、才能を伸ばす『モンテッソーリ教育』とは?――『教え、導く』ではなく『知り、見守る』ことがポイント」

藤井四段が入園した地元の幼稚園が取り入れていたという「モンテッソーリ教育」。英国のウィリアム王子ほか、各界の著名人も多く受けているというこの教育法は…
https://www.bookbang.jp/article/534341

〈『盤上の向日葵』レビュー〉
「『藤井四段』を髣髴させる天才棋士も登場 社会派将棋ミステリー」レビュアー:香山二三郎(コラムニスト)

(略)著者は二〇一六年、映画『仁義なき戦い』シリーズに触発された警察小説『孤狼の血』で日本推理作家協会賞を受賞、話題を集めたが、それとはまた一味異なる勝負の世界に生きる男たちの姿を鮮やかに描き出した。…
https://www.bookbang.jp/review/article/538567

〈『ひふみんの将棋入門』レビュー〉
レビュアー:産経新聞社

(略)既刊の新装版で、藤井聡太四段評も書かれているほか、「負けは次につながる」「美しいものは正しい」などユニークな将棋・人生論も収録。人気者・ひふみんの素顔を知りたい人にもおすすめ。
https://www.bookbang.jp/review/article/539647

〈『天才棋士 加藤一二三 挑み続ける人生』リリース〉
(略)将棋ファンには気になる数々の名勝負の舞台裏も明かしており、大山康治十五世名人や中原誠十六世名人といったライバルとの激闘や、羽生善治棋聖、藤井聡太四段など現役棋士たちとの対戦や交流についてなど、あまり知られていない将棋界でのエピソードを披露している。…
https://www.bookbang.jp/article/541097

■7月19日 第157回芥川賞に「影裏」直木賞に『月の満ち欠け』

 日本文学振興会は第157回芥川龍之介賞に沼田真佑さんの「影裏(えいり)」(文藝春秋)を選出しました。直木三十五賞には佐藤正午さん『月の満ち欠け』(岩波書店)が選ばれました。沼田さん、佐藤さんともに、初候補での受賞となりました。沼田さんは同作がデビュー作でした。佐藤さんはこの道30年以上の大ベテランで、同作は受賞前から書評家たちの間では高い評価を受けていました。

〈『影裏』レビュー〉
「語り得ぬこと ありありと」レビュアー:小澤英実(文芸評論家)

震災のような「語りえない出来事」をいかに語るか。デビュー作にして芥川賞を射止めた本作は、フィクションに許された資質を存分に活用してその問いに答えた野心作である。…
https://www.bookbang.jp/review/article/537313

レビュアー:朝井リョウ(作家)
(略)主人公の元恋人が同性であるためLGBT文学、あるいは震災文学とも呼ばれる今作だが、個人的には、その二点は物語を構成する要素の一つであり、それらを通過することで…
https://www.bookbang.jp/review/article/539090

〈『月の満ち欠け』レビュー〉
「いまこの目の前にいるのはだれなのか? 瑠璃をめぐる三十四年の物語」レビュアー:風丸良彦(盛岡大学教授・アメリカ現代文学・文化専攻)

歳を食うと小説片手にこんな体験は稀になるが、貪り読んだ。村上春樹や池井戸潤でもこうはいかない。直近では又吉直樹の『劇場』で近い体験をした。なにがそうさせるのか。…
https://www.bookbang.jp/review/article/532591

「生まれ変わり主題に」レビュアー:陣野俊史(文芸評論家)
(略)佐藤の小説を読むと、いつも音楽を想起する。たとえば太鼓は、その楽器の特性をよく知った演奏家の正確無比な腕によってきちんとした音を出す。佐藤は、小説を動かす正確な手法を知っている。…
https://www.bookbang.jp/review/article/531881

■8月29日 北朝鮮のミサイルが日本上空を通過

 弾道ミサイル開発を進める北朝鮮は8月に入り、アメリカ・グアム島周辺に向けた発射計画を明らかにし、8月中旬までに最終完成させると予告をしていました。29日に発射されたミサイルは日本の北海道上空を通過し、襟裳岬の東約1180キロに落下しました。発射から4分後、日本政府は全国瞬時警報システム(Jアラート)を発信し、日本全国に警戒を促しました。その後も9月、11月とミサイル実験・核実験を続ける北朝鮮に対し、アメリカのトランプ大統領はツイッターや公式声明で挑発を続け、世界各国に協調して圧力をかけることを求めています。2017年は北朝鮮とアメリカの戦争に言及した書籍が数多く出版されました。緊張の高まる現状を分析した2冊の紹介です。

〈『北朝鮮がアメリカと戦争する日』レビュー〉
レビュアー:産経新聞社

(略)本書の題名にあるように、そんな日がくるのか。元自衛艦隊司令官の著者は「米朝開戦Xデー」を大胆に予想する。最も早いXデーとは…。著者が冷静な分析を交えて提示したシナリオに、深く納得する読者は少なくないだろう。…
https://www.bookbang.jp/review/article/544368

〈『北朝鮮 核の資金源』レビュー〉
「北朝鮮制裁の『抜け穴』を暴く衝撃の告発」レビュアー:長野智子(キャスター)

かつてこれほどまでにアメリカ国民が北朝鮮という極東の小国に、強い関心と恐怖を抱いたことはなかったのではないか。そもそもアメリカの対外的な関心のほとんどは、これまで中東に向けられていた。…
https://www.bookbang.jp/review/article/544577

■9月8日 元SMAPの稲垣吾郎、草なぎ剛、香取慎吾、ジャニーズ事務所を退所

 2016年8月に解散を発表した国民的人気アイドルグループSMAPの元メンバー、稲垣吾郎さん、草なぎ剛さん、香取慎吾さんがジャニーズ事務所を退所しました。22日には新しい事務所「CULEN」の所属となり、公式ファンサイト「新しい地図」を立ち上げました。ジャニーズ時代は見送られていた、ネットメディアへの進出も果たし、大きな話題となりました。稲垣さんが事務所退所の前後に読んだ三島由紀夫の『午後の曳航』(新潮社)が話題となりました。

〈『午後の曳航』レビュー〉
稲垣吾郎が「沁みる」と漏らした三島由紀夫の傑作中編『午後の曳航』とは

(略)『午後の曳航』は横浜に住む13歳の少年「登」が主人公。世界は矮小で空虚なものであると捉え、世の大人は生きているだけで「罪を犯している」と考える早熟な天才少年だった。…
https://www.bookbang.jp/article/540621

■10月1日 ラスベガスで銃乱射事件  死者59人・負傷者527人

 アメリカ西部ラスベガスで野外コンサート会場に集まっていた人々に向け、近隣のホテル32階から男が銃を乱射しました。死者59人、負傷者527人に上り、犯人は自殺しました。アメリカ史上最悪の被害となったこの事件を受けてなおアメリカでは銃規制の動きはみられません。凶器に取り付けられていた殺傷能力を高める連射装置の規制が進んだ程度です。アメリカでは何度も繰り返される銃乱射事件ですが、1999年に起こった「コロンバイン高校銃乱射事件」は今でも多くの人々の記憶に残っていることでしょう。事件の犯人だった高校生の母親が書いた手記が話題となりました。

〈『息子が殺人犯になった』レビュー〉
「最大級の恐怖を体験した母が辿りついた究極の答え」レビュアー:大竹昭子(作家)

なにが恐ろしいといって、自分の産んだ子供が人殺しをするほど恐いことはないだろう。その最大級の恐怖を実際に体験した母親の手記だ。…
https://www.bookbang.jp/review/article/537847

レビュアー:服部文祥(登山家・作家)
(略)著者は考える。被害者の家族はもちろん、ニュースを聞いた第三者も「いったい親はなにをやっていたのだ」と思うだろう。…
https://www.bookbang.jp/review/article/539091

■10月5日 ノーベル文学賞に日系英国人作家カズオ・イシグロ氏

 2017年ノーベル文学賞の受賞者が発表され、長崎県出身の日系英国人作家であるカズオ・イシグロ氏の受賞が決定しました。イシグロ氏は小学生の時に渡英、以来英国で暮らし1982年に発表した処女作『遠い山なみの光』で作家デビュー。89年に発表した『日の名残り』でブッカー賞を受賞しイギリスを代表する作家となりました。2005年の作品『わたしを離さないで』は日本でもテレビドラマ化され、大きな話題となりました。書評家で女優の中江有里さんは同作から大きな影響を受けたと語っています。またノーベル賞受賞以降多くの書評が寄せられています。

〈『わたしを離さないで』レビュー〉
ノーベル文学賞カズオ・イシグロの魅力を中江有里が語る「人生で大切な一冊」

(略)「あえて予備知識なく読んで欲しい。私も衝撃を受けた一人」とアドバイスする。そのうえで、主人公の子どもたちを待ち受ける運命や宿命に心打たれたと明かす。…
https://www.bookbang.jp/article/539747

〈『忘れられた巨人』レビュー〉
「正にカズオ・イシグロ祭り 全作品111万部の増刷!」レビュアー:倉本さおり(書評家、ライター)

(略)実際、読んでみればわかることだが、「記憶」や「人間の弱さ」といったテーマは深遠でありつつも普遍的、文章はあくまで平易で読みやすい。要するに、「海外文学」という垣根を越えて橋渡しできるきっかけさえあれば、一気に浸透する素地は充分にあったわけだ。…
https://www.bookbang.jp/review/article/541972

「ノーベル賞作家が描く幻想とリアル」文:海老沢類
(略)読者は、個人や社会が苦い記憶とどう向き合うべきか、という普遍的な問いに向き合うことになる。身近な恋愛のこと、世界各地で頻発する紛争を思いながら。…
https://www.bookbang.jp/article/541361

〈『日の名残り』レビュー〉
「カズオ・イシグロが描く“お堅いバトラー” ブッカー賞受賞」レビュアー:渡部昇一(上智大学名誉教授)

 イギリスにはバトラーと称する特別な人たちがいることがよく知られております。これは一応「執事」と訳されております。イギリスの貴族階級が出るような映画でもお目にかかるように、…
https://www.bookbang.jp/review/article/523100

■10月31日 神奈川県座間市内のアパートの一室から9遺体が見つかる

 東京・八王子市に住む23歳の女性が行方不明になり、その捜査の過程で神奈川県座間市にあるアパートの部屋で9人の遺体が見つかりました。警視庁は1人の遺体を遺棄した疑いでこの部屋に住む27歳の男を逮捕しました。事件の詳細が明らかになるに従って、そのあまりに短期間に犯行を重ねた男の猟奇的で巧妙な手口が、世間に大きな衝撃を与えました。「うつむき、睫毛を涙で濡らしながら歩く、傷ついた少女たち。その男は心の弱った女性の悲しみにつけいり、次々と食い物にした」これは翻訳家でエッセイストの鴻巣友季子さんが、座間事件とは別の連続殺人事件を描いた本の書評に寄せた言葉です。鴻巣さんが見出した共通点はこの事件を考える上においても重要な視点となるでしょう。

〈『ザ・ガールズ』レビュー〉
「題材は女優も犠牲になった『マンソン事件』 映画化デビュー作」レビュアー:鴻巣友季子(翻訳家、エッセイスト)

(略)マンソン事件をモデルにしながらマンソン役は前面に出さず、少女メンバー同士の関係に光を当てたところに、リアルな考察と新しい物語が生まれた。今こそ読みたい一冊。
https://www.bookbang.jp/review/article/542831

■12月1日 天皇陛下の退位日めぐる「皇室会議」が開かれる

 昨年8月に示された天皇陛下の「お気持ち」の表明を受け、退位日について検討を重ねていた政府は、宮内庁特別会議室で皇室会議を開きました。会議では採決はとられず意見の集約が図られ、2019年4月30日に退位する日程が決定しました。お気持ちの表明以来、皇室や天皇制にまつわる議論が噴出し、多くの書籍が出版されました。議論の前提となる素朴な疑問を解説する一冊や本当の問題は別にあると突きつける一冊の紹介です。

〈『いま知っておきたい 天皇と皇室』レビュー〉
レビュアー:産経新聞社

著者は元宮内庁職員の皇室ジャーナリスト。前半は天皇陛下の譲位問題の要点を易しく解説、後半は著者らしいエピソードを交え皇室や宮内庁の実像に迫っている。…
https://www.bookbang.jp/review/article/531856

〈『皇室がなくなる日』レビュー〉
「皇室制度、喫緊の課題を敢えて説く」レビュアー:園部逸夫(元最高裁判所判事、皇室法研究者)

 生前退位の問題はともかく、皇室がこのままでは、滅亡すると、笠原教授は問題を提起する。さて、どうするか。笠原教授は、日本政治史の観点から、皇室問題に取り組んでおられる学者である。…
https://www.bookbang.jp/review/article/527458

 ***

 2017年は国際的にみると昨年吹き荒れたポピュリズム政治の結果が問われる一年となりました。アメリカでは人々の分断が進み、欧州ではいまだに混乱が収まっていません。また北朝鮮によるミサイルの脅威が迫るなか、足元の国内では森友・加計問題に揺れたものの、衆院選では大山鳴動して鼠一匹出ない結果となりました。国内で起こった「スキャンダル動画で辞任する政治家」や「MeToo運動」、「ネットと向き合うアイドル」「製造業の不正が次々と発覚」などの出来事をみると、誤魔化しや虚飾の効かない世の中になっていることも実感できる一年でした。その根にあるものは全ての人々が声をあげることができるネット社会の到来によるものであると感じられます。それはまた世界に広がる「不寛容」や「分断」の原因にもなっていると指摘する書籍も多くありました。

 2017年12月に開設2周年を迎えたBook Bangは、多くの新聞・出版各社のご協力を頂き「信頼のおける」「面白い」書評を多数掲載することができました。参加社は約60社、レビュアー総数は1547名、書評7800本に上りました。2018年に更なる展開を予定しております。来年もBook Bangをよろしくお願いいたします。

Book Bang編集部
2017年12月28日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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