縄田一男「私が選んだベスト5」 夏休みお薦めガイド

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縄田一男「私が選んだベスト5」 夏休みお薦めガイド

[レビュアー] 縄田一男(文芸評論家)

『将軍の子』は、デビュー作『会津執権の栄誉』がいきなり直木賞候補になった作者の会心作。注目すべきは、その小説作法で、徳川秀忠の庶子として生まれながら初代会津藩主となった保科正之の半生を、彼を支えた人々の目を通して描いた作品。従って、正之の成長とともにその出番も多くなっていくが、主人公を慈しむような文体が作者の正之への愛情をよく表わしている。

『とむらい屋颯太(そうた)』は、人の死を業として飯を喰う、颯太以下、六人の仲間の活躍を描く全六話の連作。活躍を描く、というからには、一見単純に見える死の背後にも色々な思惑があり、不浄な稼業とののしられつつも、颯太らの眼光は鋭く、だが、弱者に対するまなざしはやさしい。そのやさしさを斜に構えたコミカルな文体も独自の雰囲気を生み、「幼なじみ」「火屋の華」などは力の入った挿話だ。

『訣別』は、ハリー・ボッシュものの十九作目の作品で、私見によれば『暗く聖なる夜』以来の傑作である。帯の惹句に“チャンドラー”“フィリップ・マーロウ”という文字が乱舞しているので、少し違うのではないか、と眉に唾をつけて読みはじめたが、涙腺が決壊するのは時間の問題だった。

『神戸・続神戸』は、森見登美彦の秀逸な解説とともに陶然たる一巻である。名著復活と帯にあるが、正しく然り。一行目から魅せられ、解説にあるように、この作品に正に“感極まり”、最後には至福のときが待っている。この夏、いちばんの読書体験。

『昭和史講義【戦前文化人篇】』は、まず自分の最も興味のある人物、五味康祐の師・保田與重郎、中里介山、長谷川伸、江戸川乱歩等を読んだ。それぞれの人物にさかれているページは少ないが、中味は濃い。暑い夏に汗をかきかきじっくり読まれるべき一巻。

新潮社 週刊新潮
2019年8月15・22日夏季特大号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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