細かいところが気になりすぎて―ツッコミ中毒者の日々―
2023/05/26

「汁が大好き」ラーメン、松茸の土瓶蒸し、貝の浜焼きなど、溢れ出る旨味を銀シャリ橋本が語る

  • シェア
  • ツイート
  • ブックマーク

人気お笑いコンビ・銀シャリ橋本直さんが文芸誌「波」で綴るのは、どうしてもツッコまずにはいられない、そんな“ツッコミ中毒”な日々。第7回のテーマは「汁」です。相方・鰻和弘さんの4コマ漫画もあわせてお楽しみください

 ***

 汁が大好きだ。

 まず、うどん、そば、ラーメンの汁。これらは言うまでもなく汁界における最高峰。

 そもそも「出る汁」と書いて出汁(だし)と読むのからして最高だ。鰹と昆布の旨味ってなぜあんなにすごいのだろう? 鰹節に多く含まれているという旨味成分のイノシン酸、昆布に多く含まれているという旨味成分のグルタミン酸。特にこのグルタミン酸ってめちゃ言いたくなる。もはや響きだけでよだれが出そう。「グルタミンさん」とさん付けの方で呼んでしまいそうなくらい、体中に沁みわたる旨味。煮干しやうるめの出汁もなんであんなに美味しいのだろう。

 ラーメンの汁! もうなんなんですか、アレは!! 一口含んだ時のあの多幸感。どんぶり鉢いっぱいに広がる宇宙。塩、醤油、味噌、豚骨。淡麗醤油とか言い出したのは誰や。淡麗って言葉のチョイス、完璧やん。

 逆に濃厚だって完璧だ。豚骨醤油に魚介豚骨など、言語の組み合わせの妙がえげつない。豚から、牛から、鶏から出る「動物系の汁」も、あれほど凝縮されているのはなぜだろう。それらに煮干しを合わせたりすることもあるから大変だ。様々な汁の組み合わせによって、より最高の汁が生まれるのだ。

 チャーシューを煮込んだ汁を醤油だれのかえしに初めて利用した人もすごい。旨味エコ汁でもあるのだろう。あますことなく汁となる。ラーメンこそ「汁アベンジャーズ」だ。いや、ここはいっそ、「アベンジャー汁」と呼ぼう(「アベンジャーじゅう」と読んでください)。つけ麺のスープ割りなんて、凝縮された汁に洗練された汁を足して飲むわけやからね。汁で汁を割るという……。

 潮汁に至っては塩で味付けだなんてもうヤバすぎる。魚介類からええ出汁がめちゃくちゃ出ているのだから、これ以上なにを小細工する必要があるねん、的な覚悟を感じる。格好いい。粕汁なんてその名称によく耐えてくれているとも思う。あんなに美味しくて体が温まる汁物は他にないのに、「カス」って。あんまりじゃない? 酒粕汁と正確に呼んで欲しい。

 お鍋の汁はもはや尊い。崇め奉るべき液体だ。もはや汁をいただくために具材を食べていると言っても過言ではない。おかんがよく言ってませんでした? 「雑炊するから、はよ具材全部さらってしまって~」って。

 具材が最後には邪魔になってしまうのだ。雑炊でしめてしまうと汁が全てなくなってしまうので、僕としてはその前にうどんか中華そばを挟んでおきたいところだが。雑炊にする段階でお汁の量が多かったら、わざわざ減らしもする。全部の米に汁がしっかり行き渡るように。これが本当の、「美味しすぎて、全米が泣いた」だ。

 逆に汁が美味しすぎて少なくなってしまった時(僕の場合はそうなることがほとんど)、「水足そうか?」と提案をされることがあるが、あれは絶対やめて欲しい。せっかくここまで汁を育ててきて、旨味が凝縮しまくっているのに、それをわざわざ水で薄めるなんて! それならば昆布を足したり、鍋の素のキューブを足したり、柚子胡椒を入れたり、豆板醤を入れたり、麺つゆを入れたり……。無味無臭の水を足すより少しでも旨味があるものを足したい。
 
 
 
 その昔、芸人仲間の何人かでルームシェアをしていた時のこと。6日連続で鍋をしたことがある。汁を継ぎ足し継ぎ足し、まるで老舗の鰻屋さん並みに昨日の残りの汁に新しい鍋の素を入れては、またその日の汁を残して、次の日また新しい鍋の素を入れて……。汁がなくなってしまうので雑炊だけは最終日まで我慢した。とはいってもその時は最終日がいつになるかなどわかっておらず、汁がなくなった日が結果、最終日になったのだった。6日目の汁に1日目の汁の面影はあるのか? と疑問に思われるかもしれないが、果たしてそれは僕にもわからない。ただ、あると信じて食べた。今までのエキスがたっぷり染み込んだ汁を米一粒一粒が纏い、もう完全なる雑炊だった。旨味の増水の雑炊だ。黄金に光る米を、ゴールドラッシュが如く黙々と口に放り込んだ。うまい、うますぎる。

 おでんの汁もいい。色々な具材が長時間浸かっているので、とんでもない汁になる。できあがりの汁の状態を逆算して具材を選ぶくらいだ。つみれを入れたら魚の出汁、練り物からも実にいい出汁が出るとか。その出汁をまた具材達が自分自身に染み込ませていくから……。汁循環式の魔法だ。大根なんてもう、あれは汁を収納する最高の器だろう。汁という素晴らしい脚本ありきで、具材をキャスティングしていくとも言える。その場合、大根は大根役者みたいになってしまうが、それは根も葉もない噂にすぎない。大根は根も葉もあるからややこしいけれど。

 最近では、おでんの汁を日本酒で割る「出汁割り」なるものが存在するみたいで、試しに頼んでみたらもう無限ループ確定だ。最初に試みたのは誰や! よくぞやってくれた! 「行儀悪いで!」とか「なにしてんのそれ!」とかいう誹(そし)りを、恥も外聞もなく正面突破で乗り越えてくれた結果だ。最初は、汁を口に含んだまま日本酒を飲んでみたのだろうか。汁をアテに日本酒を飲めてしまうのに、それを渾然一体とさせてしまうとは、リンスインシャンプー以上の離れ業だ。その組み合わせの絶妙さたるや、無限に飲めてしまうのは、至極当たり前なのだ。

 松茸の土瓶蒸しに最初に出会った時は、本当に面食らった。

「な、なにこれー!!」

 土瓶から注いだ汁をお猪口で飲むの!? 汁を楽しむ所作としては最高峰と言えるだろう。一番の汁リスペクト。松茸の香りも閉じこめられていて、あれはもう秋を啜っているのと同じだ。季節を吸うなんて、なんとまぁ粋なことよ。
 
 
 
 最近、白菜と舞茸と缶詰のサバの水煮を一つの鍋にぶち込んで鶏がらスープで炊くのを簡単でよく作っている。言うまでもなく、この炊いた後に出る汁が最高だ。白菜と舞茸から水分が出るので、あえて最初に入れる水はめちゃくちゃ、本当にめちゃくちゃ少しにする。サバの水煮からも水分を拝借しているから、汁の成分はできるだけ旨味の率を上げたい。

 その少しだけ入れる水も、サバの水煮を投入した後の缶を器にして入れる。そうすることで缶に取り残されたサバの身の残党も一気に流しこんで、少しでも汁の旨味に貢献してもらうのだ。最初は、「え! こんなに水分なくていける?」みたいな声が鍋の中から聞こえてきたが、蓋をしてしばらく煮込むと、「わ、えらいすんません! こんなに水分出てくるんですね、失礼しました!」なる謝罪が聞こえるとともに、グツグツと音をたて始める。

 この突如現れる水分、つまりはこの段階での「汁」を見るのも大好きだ。この汁にラーメンを入れて煮込んでも美味しいし、ラーメン後、翌日の雑炊も最高だ。チーズをかけてリゾットにするのも大いにアリ。


漫画:銀シャリ・鰻和弘さん

 リゾットと言えば、イタリア料理のアクアパッツァなんて、汁がヤバい、 ヤバすぎる! イタリアの人ようわかってはるわ~。フランス料理のブイヤベースもしかりで、フランスの人も汁に対するセンスありまくりやん!と、勝手な激賞が止まらない。スペイン料理のアヒージョ、言ってみればあれも油の汁。さすがやで。汁への愛は世界共通ということだろう。

 牛肉の赤ワインソース、あれも最高。ソースは言わずもがな、汁だから。かける汁だから。肉を焼いたフライパンから一旦肉を取り出し、赤ワインやバターを入れてソースを作る。肉の旨味、まさに肉汁の旨味がフライパンに出てしまっているのをむしろソースにするという発想。ソースをかけられた肉側は自分の分身が再び帰ってきたと喜ぶだろう。そして肉を食べたあと、バゲットにつけて汁を余すところなく味わうあの行為、素敵すぎる。汁は一滴残らず平らげたい。

 貝もやばい! 網の上に並べて焼くだけの浜焼きなんて最高だ。貝の口がパッカーッと開く瞬間にはこの上なくうっとりする。

「汁こぼすな! 絶対に汁こぼすなよ!!」と、殺人の現場検証並の緊張感もたまらない。一滴残らず口元まで持ってこいという、あのハラハラドキドキの動線も大好きだ。

 醤油を貝に直接かけるのもたまらない。貝から出る汁とあいまって旨さが跳ね上がりすぎる。ホタテのバター焼きも最高。バターが溶ければそれは汁。バター焼きのことをソテーと初めて呼んだ人と握手したい。「ソテー」という響きがまた、この上なく旨そうな汁を想起させる。

 あさりの酒蒸しも、ええ汁が出ている。焼かずとも炒めずとも蒸さずとも、牡蠣の殻付きのやつをそのまま口に縦に持っていき「トゥルン」と放り込む、あの一連の動きも最高だ。磯の香りが旨味ウォータースライダーのように頬から喉へ高速でかけ降りてゆく。鼻腔からラッセンが如く海のお出汁のイルカが飛び出しそう。そもそもよく考えたら海が塩分を含んでいること自体がすごいことだ。地球を味付けしているのと同じだから。海って最強の汁だったのだ。
 
 
 
 健康に必要な栄養素をバランスよく取れて、日本人において理想的な献立が「一汁三菜」ということは、ずっと昔から言われてきたことだ。こうして書いてみると、「一汁」のメインボーカル感たるや! 一汁だけが一つのマイクを単独で使い、三菜は後ろで3人で一つのマイクを使っている感じ。一汁の輝きは唯一無二だ。

 まだまだ僕の知らない「汁」は世界にはたくさん存在するだろう。そんな「知る人ぞ知る」というより「汁人ぞ汁」を今日も僕は探し続ける。誰かに出し抜かれないように……。「出汁抜かれ」たらたまったもんじゃないから。

(銀シャリ橋本直さんのエッセイの連載は毎月第3金曜日にブックバンで公開。橋本さんの“ツッコミ中毒”な日々が綴られます)

 ***

橋本直(はしもと・なお)
1980年生まれ。兵庫県出身。関西学院大学経済学部を卒業後、2005年に鰻和弘とお笑いコンビ「銀シャリ」を結成し、2016年に「M-1グランプリ」で優勝。現在はテレビやラジオ、劇場を中心に活躍し、幅広い世代から人気を得ている。

  • シェア
  • ツイート
  • ブックマーク