細かいところが気になりすぎて―ツッコミ中毒者の日々―
2024/01/15

香川県で「どん兵衛」選択にドン引き…ほぼチェーン店で食べる相方の異常な食生活を銀シャリ橋本が語る

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人気お笑いコンビ・銀シャリ橋本直さんが文芸誌「波」で綴るのは、どうしてもツッコまずにはいられない、そんな“ツッコミ中毒”な日々。第15回のテーマは「鰻という男」です。相方・鰻和弘さんの4コマ漫画もあわせてお楽しみください

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 僕の相方の鰻和弘はチャレンジをしない男だ。安定を求める。アイスを頼む時もバニラ一択。ずんだもちアイスや、とちおとめアイス、はたまた醤油アイスなど、ご当地アイスには目もくれない。

 アイスを2種類同時に頼める「ダブル」なんて、もちろん注文しているのを見たことがない。バニラのみの一択。単勝一点買い。潔さにもはや惚れ惚れする。

 僕はそんな相方とは真逆でご当地のものを必ず食べるタイプ。失敗することも、もちろんある。ただ、せっかくならそこでしか食べられないもの、その土地でしか食べられないものをチョイスしたい。皆さんはどうですか?
 
 
 
 バニラ一択の男・鰻は、ご飯についても抜群の潔さを発揮する。東京の劇場「ルミネtheよしもと」の出番の合間のお昼ご飯は決まって、カレーハウスCoCo壱番屋のチーズカレーにトッピングで半熟卵2個。笑えるくらい、毎回これだ。ちなみに半熟卵1個はそのまま口に入れる。大蛇みたいに丸々口に入れるのだ。理由はわからない。鰻の祖先は蛇だったか?

 大阪の「なんばグランド花月」の出番の合間のお昼ご飯はといえば、つけ麺か牛丼か、カレーハウスCoCo壱番屋のチーズカレー、トッピングに半熟卵2個。同じ文言で字数を稼ぐみたいになってしまい申し訳ないが、本当に基本この3択なのだ。

 どこまでも冒険しない。新しく美味しいお店ができたと楽屋で話題になっても一切耳を傾けない。我関せずといった具合。鉄の意志。どこまでもこの3本柱でいく覚悟は、相方ながら見上げたものだ。プロ野球の先発ピッチャーなら、この3人だけのローテーションでいったら確実に酷使されすぎて潰れるだろう。

 そんな3択の男も、一時はつけ麺にハマりすぎてお昼は毎日つけ麺一択、つけ麺だけ食べている時期があった。

 出番の合間、時間に余裕があるのに走っている鰻を見かけたことがある。なぜ走っていたのか、あとで尋ねると、「え!? 俺走ってた? ほな、つけ麺食べたすぎて無意識で走ってもうてたかも」との返事だった。

 自覚ないんかい、怖すぎるやろ! つけ麺に取り憑かれてるやん。つけ麺やのに入り浸ったら、麺伸びてまうで。

 ちなみに鰻は、つけ麺屋さんで絶対に「つけ汁濃いめで」と注文する。あまりにも常連になり過ぎて、食券を出しただけで店員さんの方から「つけ汁濃いめですね?」と言われる時もあるくらいだ。

 ある時「つけ汁濃いめで」と当たり前のように注文したら、「え? なんですか? うちそんなんやってません」と断られたことがあるらしい。楽屋で「ちょっと、せつな恥ずかしいわ」というオリジナルの形容詞を放った鰻の顔は、照れながらもええ顔をしていた。

 牛丼も大好きで、本当によく食べている。東京で初めて吉野家に行った時、「やっぱ六本木の吉牛は違うわ~」と満面の笑みで咀嚼する姿は今でも忘れられない。

 なんなら僕は、鰻がお昼に食べたものを当てられる。その日の仕事の詰まり具合、合間のアンケート等の作業や、取材が入っているか否か、一日に6回舞台の出番がある中で、どの出番の合間に食べに行くかも全て考慮した上で店の立地や距離を計算すれば、だいたい何を食べたか叩き出せるのだ。選択肢はいつだって「Aつけ麺 B牛丼 Cカレー Dその他」で、みのもんたさんに「ファイナルアンサー?」と問われても即答で「ファイナルアンサー!」と返せる自信がある。「鰻昼飯クイズミリオネア」で僕は、すぐに賞金1000万円を獲得できるだろう。

 一方僕はというと、劇場の合間は新しいお店を開拓すべく、せっせと散歩している。1時間くらい歩くのも全く苦ではない。美味しいお店を新しく見つけた時の感動はとてつもないものがある。もちろん鰻にはこの感動はわかってもらえない。だが、別に寂しくはない。
 
 
 
 全国を巡る47都道府県ツアーで、色々な土地に行かせてもらっているが、うどんでおなじみの香川県でのライブの時、鰻は楽屋で即席めんの「どん兵衛」を食べていた。正直、その姿には痺れてしまった。徹底しているな、と。

 鰻はどの土地に行っても、ライブ前のお昼ご飯は東京や大阪のときと同じ、チェーン店で済ませていることが多い。「どこでも安定して美味しいご飯が食べられるから、ほんまチェーン店様様やで」とよく言っている。ものは考えようだなとしみじみ思う。

 僕のジャーナリズム精神がうずき、なぜいつも同じお店ばかり選ぶのかと、鰻にインタビューをしたことがあるのだが、「新しいお店にチャレンジしてハズレた時のショックが大きいから」という思いのほか単純な理由だった。「知っているお店に行けばハズレることはない、安定の美味しい味が楽しめるから」だと。ひとつ追加で質問してみた。「でも、いつもよく行くお店も、初めて行った日があるわけよね? 新しいお店に行けばもちろんハズレることもあるけど、逆にめちゃくちゃ美味しかった場合、またその店がローテーションに加わって常連になる可能性もある。その辺についてはいかがお考えですか?」。そう尋ねると、鰻は黙った。そして結局、最後まで答えなかった。
 
 
 
 ご飯だけではない。鰻は履いている靴もVANS一択。自分の足に一番合うらしい。鰻曰く、横幅が重要で、未来永劫、VANSしか履かないと決めているそうだ。VANSの会社が万が一潰れたら、裸足で生きていくと思われる。万事、一途な男なのだ。

 身につけるものも黄色が多め。でも、好きな色ではないらしい。ただ、番組で一度オーラカラーなるものを見てもらったら黄色だったとか。なのでそれからずっと黄色チョイス。携帯カバーも黄色。スーツのジャケットの裏地も黄色。とりあえず迷ったら黄色と決めているので、色を選ぶのがかなり楽になって最高らしい。

 だが一番好きな色は茶色だという。その理由を尋ねたら二つあった。「土の色やから」というのと、ご飯が大好きで、唐揚げや焼肉などご飯に合う美味しいおかずには茶色の食べ物が多いから、らしい。なんやその答え! ますます意味がわからん。

 確かに鰻はご飯が大好きだ。白いご飯が大好物。ほな好きな色は白でええやろ! なんでメインの色じゃなくて、おかずの色でいくねん!

 ライブの打ち上げでも最初の注文から白いご飯を頼むくらいのご飯好きで、でも鰻が特に好きなのは、卵かけご飯だ。やはり黄色なのか……。

 白いご飯に卵をかけるのは好きなのに、例えば焼肉をご飯にいったんバウンドさせるのは嫌だというから、ややこしい。せっかくの白いご飯が茶色に染まっていくのが嫌らしい。ほな茶色嫌いやん、というツッコミはぐっと堪えたものの、海鮮丼、ステーキ丼、親子丼など具材が白ご飯の上にのってしまっているのも残念で、あまり好きではないという。いや、あんたの大好きな牛丼はどう説明すんねん! 卵かけご飯はめっちゃ好きやのに親子丼はあかんのかい! ほんで、そもそも卵かけご飯が一番、白ご飯が白ご飯のままではいられなくなる代物やけどな! 代物であり白物やけどな! 茶色に染まんのはダメで、黄色に染まんのはありなんかい! ほんで醤油垂らしたらもう黄色は茶色になってるで!!!


漫画:銀シャリ・鰻和弘さん

 まさに無茶苦茶だ。「無茶苦茶」にはたくさん「茶」が入っている。僕の方が茶色を好きになってしまいそうだ。
 
 
 
 鰻の白ご飯好きも行くところまで行っていて、一度、店舗と住まいが一緒になっているお店で白ご飯がメニューになかったとき、鰻が即座に帰ろうとすると、理由を聞いたお店の人が2階にあがられ、「あの~家用のご飯でよかったら~」と白ご飯がよそられたお茶碗を出されたらしい。プライベートライスを出していただいた人間を、僕は鰻以外知らない。

 さらに驚いたのは、また別のお店で、お仏壇にお供えしていた白いご飯をお茶碗に入れて出してもらいそうになったこともあったという。さすがにそれはお断りしたらしい。「白ご飯珍遊記」を武勇伝として語ってくれた鰻の横顔は、せつなカッコよかった。
 
 
 
 そんな鰻も2月に取るお正月休みには毎年一人で海外旅行に出かけている。2023年はドイツ、チェコ、オーストリアに行っていた。次はエジプトと南アフリカに行くらしい。いや、そこはめちゃくちゃチャレンジャーなんかい! 英語も話せないのにたった一人で……すごすぎるやろ。40歳を過ぎて初めて一人旅をした、しかも行き先は熱海だった僕には、到底無理なことだ。このチャレンジングスピリット、心から尊敬している。

 日本でためにため込んだチャレンジングスピリットポイントを、海外に全振りする鰻。ただ、23年に行ったドイツでは三食ともソーセージを食べたらしい。あくまで鰻は、鰻なのだ。
 
 
 
 性格が真逆の二人で組んだ銀シャリだが、不安定な芸人という世界に飛び込んだ時点で、そもそも僕たちは二人ともチャレンジャーなのかもしれない。

(銀シャリ橋本直さんのエッセイの連載は毎月第3金曜日にブックバンで公開。橋本さんの“ツッコミ中毒”な日々が綴られます)

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橋本直(はしもと・なお)
1980年生まれ。兵庫県出身。関西学院大学経済学部を卒業後、2005年に鰻和弘とお笑いコンビ「銀シャリ」を結成し、2016年に「M-1グランプリ」で優勝。現在はテレビやラジオ、劇場を中心に活躍し、幅広い世代から人気を得ている。

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