細かいところが気になりすぎて―ツッコミ中毒者の日々―
2023/03/17

「洗濯物を干すのが嫌い」浴室乾燥の悩みやジェルボールの意外な欠点など…銀シャリ橋本の洗濯と格闘する日々

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク

人気お笑いコンビ・銀シャリ橋本直さんが文芸誌「波」で綴るのは、どうしてもツッコまずにはいられない、そんな“ツッコミ中毒”な日々。第5回のテーマは「洗濯物」です。相方・鰻和弘さんの4コマ漫画もあわせてお楽しみください。

 ***

 洗濯物を干すのはもっぱら浴室だ。

 僕の家の洗濯機は乾燥機能がついていない縦型タイプなので、いつも浴室乾燥機を使って干している。

 サンサンと太陽を浴びる天日干しの方が洗濯物たちもさぞ喜んでくれるだろうことは重々理解しているのだが、花粉や黄砂やPM2.5が付着する心配もなければ、突然の雨で濡れてしまうこともない。なにより、洗濯機から浴室までたったの2歩の最短ルートなので、距離的にも浴室乾燥一択なのだ。

 ただ、たまにボーッとしすぎているのか、洗濯機を回しはじめて「その間にシャワー浴びよう」と思い立ち、浴び終わって体を拭いてドライヤーで髪の毛を乾かしているくらいで、ピーッピーッと洗濯の終わりの合図が鳴る。そしていざ洗濯物を干そうとなると……そうです、浴室の洗い場はビチャビチャなのだ。湿気もすごい。やってしまった。

 幸い一人暮らしなので自分の洗濯物しかない。仕方ないよねと自分に言い訳しながら、洗濯機から洗濯物を取り出しハンガーにかけ、浴室に干す。もちろん足の裏はビチャビチャになるから、バスマットで拭く。そしてまた洗濯物を取り出して……。

「いや今日どんだけ濡らしていくねん! なんぼほど吸収せなあかんねん!」

「いや乾かす気ある? どんだけ湿気多いところに突入していくねん!」

 バスマットと洗濯物からの苦情が聞こえるような気がする。
 
 
 
 洗濯物といえば、夜遅く仕事から帰ってきてすぐにシャワーを浴びようと浴室に入ったら、洗濯物が干してある時もある。お先真っ暗ならぬ、お先真っ裸状態。今から取りこむのは面倒くさい。なるべくシャワーの水が跳ねないように、干してある洗濯物に対してサッカーで言う逆サイド的なポジショニングを取りつつ、肩身狭くシャワーを浴びる。

「え? 乾かしといてそのまままた濡れるの? どういうこと? アメとムチ?」

 なんて声が聞こえてくる。ごめんよ、乾いている洗濯物。

 挙句の果てに、干してあるタオルでそのまま体を拭いたりもする。横着の極みだ。

 それに、浴室乾燥が終わっている時はまだいいのだが、乾燥中にうっかりシャワーを浴びようとしてしまった時は、突然の熱気に襲われながら浴室に突入していくはめになる。体感的にはバックドラフトかってくらいの熱風がくる。USJのアトラクションやないねんから。
 
 
 
 洗濯は奥深い。

 一人暮らしももう20年近くになるが、洗濯ネットにいれるべき衣服はどれなのか、正確には把握していない。洗剤の役割はわかるけれど、柔軟剤のそれはしっかりとは理解していない。

 幼少期、実家の二層式タイプからスタートしている僕の洗濯史では、柔軟剤なんて意識したことがなかった。洗濯物は汚れが落ちているかどうかがすべてで、仕上がりのフワフワ具合を気に留めたことはない。父親はよく「フワフワよりガシガシの方が好きや」と言っていて、今でも柔軟剤に柔軟に対応できないままだ。

 柔軟剤の進化に負けず劣らず、洗剤も今は種類が豊富だ。

 粉か液状か、部屋干し専用、柔軟剤入りから抗菌効果あり、スプレータイプのものまで。僕はアリエールのジェルボールというタイプを使っているのだが、初めて発売された時は本当に革命的過ぎて衝撃だった。

 二つの勾玉(まがたま)を合体させたような、カンフーでお馴染みの太陰太極図のような小さいボールを、ポンッと洗濯機に入れるだけでいいなんて。

 ただ楽チンさゆえの難点もある。ジェルボールは洗濯機の底に入れないといけないのだが、たまに寝起きでボーッとしたまま洗濯物を入れ終えた後、

「あれっ、ジェルボールって入れたっけ?」

 とわからなくなり、洗濯槽の奥深くまで洗濯物を掘ってジェルボールを探すという、謎の逆再生行為をやらかしてしまう。捜索を終え、そもそも入れてなかったと気づいた時の情けなさと切なさは、大判小判の埋まってなかった、ここ掘れワンワン! だ。
 
 
 
 洗濯機を回すのは好きだが、洗濯物を干すのは嫌いだ。乾燥機能付きの洗濯機を買えばよかったかなぁ……としばしば後悔するが、買い換えるのも億劫で結局そのまま使い続けている。

 干す作業の何が苦手って、薄いインナーシャツはなぜあんなにもハンガーに引っ掛かってくれないのだろう。いつも苦戦する。

 今時のインナーシャツは素材が良く伸縮性があり、しかも柔らかすぎて、細いワイヤーハンガーでは到底太刀打ちできないのだ。縫い目のないシームレスなんてのもハンガーにかけたい時には逆にあだとなる。着心地の良さのアドバンテージも、かけ心地の前では無力だ。Vネックなんてもう地獄だ。Vネックの首の開いているところからハンガーの両端までずれ落ちてまったくハンガーの役割を成さない。ライチ剥いてんのか、みたいにツルリと落ちていく。

 乾いたら乾いたで、ハンガーにかかったままのインナーシャツを片手で引き剥がそうものなら、もれなくその反動でハンガーが落下する。たまに粘って体操の大車輪が如く物干し竿を一周してから落下する時もある。見事に着地失敗。空の浴槽にダイブ。ビリヤードのブレイクショットかってくらい、空の湯船で弾け回るから厄介だ。

 なかでも特に難敵なのは、シーツだ。浴室乾燥でシーツを干すの難しすぎるやろ! ドラマや映画でよく見る、大きい病院の屋上でしかあんなでっかいもん干されへんやろ! 浴室ではもうピザのカルツォーネみたいになってしまっている。もはや折り畳まれて、本当に乾くのか?
 
 
 
 これは一人暮らしあるあるだと思うが、僕は比較的いつも洗濯物がたまりがちで、休日に一気にやろうとしてハンガーが足りなくなるという問題に直面する。

 洗濯物同士の距離のなさといったら、タオルが人ならソーシャルディスタンス的には即刻アウトな状況。つまりパンパン。もはや乾かす気などない。とりあえず全部干せればいいという欲求のみ。なにかに取り憑かれたように無心で干す。

 家中のハンガー総出で干す。クローゼットからハンガーの助っ人を要請することもある。部員が少ない部活と同じで、野球知らなくてもいいから、とりあえず陸上部から足の速いやつ借りてくるか、みたいな。干し終えたらとにかく乾燥のスイッチを押す。もうこれで満足なのだ。

 案の定、それだけパンパンなので、乾燥の最大時間の6時間に設定してももちろん乾いてない。追い鰹ならぬ追い乾燥をかける。


漫画:銀シャリ・鰻和弘さん

 乾いた後に、洗濯物を取り込む時も相変わらず憂鬱だ。半端なく大量な洗濯物を前に、「こまめに洗濯すりゃいいものを、わたしゃ情けないよ……」とちびまる子ちゃんのまるちゃん口調で自分にツッコミつつも、わかっちゃいるけどやめられない。いつも同じ洗濯の選択。「一番洗いたいものは?」と問われれば、もはやこの習慣から足を洗いたい。
 
 
 
 そして最後の難関は取り込んだ洗濯物だ。どうせまたすぐに着るからと、しっかりとは畳まない。下着、靴下、インナーシャツ、タオルとで仕分けして、それぞれの所定の棚にぶち込んでいくだけだ。

 しかも取り込むのは洗濯物だけで、ハンガーまでは取り込まない。常に浴室にかけっぱなしだ。いいマンションのコンシェルジュ並みに常駐しているハンガー。そんな常駐ハンガーだが、種類も大きさもバラバラだ。

 クリーニングに出して返ってくる時についてくるハンガー、スーツを作った時についてきたハンガー、ワイヤーのハンガー、IKEAのハンガー、実家から持ってきてこれもう何年使ってるねんのハンガー……。ベテランハンガーとルーキーハンガーの見事な融合がなされていて、スポーツならかなり強いチームだろう。常勝ハンガー軍団だ。
 
 
 
 洗濯物についてあれこれと考えてみたが、結局僕は洗濯物にこれからもきっと関心がわかないだろう。ずっと心が乾いたまま、ドライなまま。柔軟に対応しないといけないのは僕の方だというのはわかっている。ただ、しんどい。

 もう服を着たまま洗車機みたいなところを通ったらピカピカになってしかも乾いてるみたいな洗人機、誰か作ってくれないだろうか。

 そんなことを考えながら洗濯機を回す。今日も僕にとって洗濯は洗浄ならぬ戦場だ。

(銀シャリ橋本直さんのエッセイの連載は毎月第3金曜日にブックバンで公開。橋本さんの“ツッコミ中毒”な日々が綴られます)

 ***

橋本直(はしもと・なお)
1980年生まれ。兵庫県出身。関西学院大学経済学部を卒業後、2005年に鰻和弘とお笑いコンビ「銀シャリ」を結成し、2016年に「M-1グランプリ」で優勝。現在はテレビやラジオ、劇場を中心に活躍し、幅広い世代から人気を得ている。

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク

連載記事