コピペで済まされる判決、懲罰左遷の裁判官・・・司法への信頼がガラガラと

レビュー

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク

裁判所の正体

『裁判所の正体』

著者
瀬木 比呂志 [著]/清水 潔 [著]
出版社
新潮社
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784104405039
発売日
2017/05/18
価格
1,650円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

司法への信頼がガラガラと 裁判所と裁判官の真実

[レビュアー] 東えりか(書評家・HONZ副代表)

 凄い本を読んでしまった。信じていた司法への信頼がガラガラと崩れていく。私はなんという国に暮らしているのだろう。

 本書は文庫Xとして大ヒットとなった『殺人犯はそこにいる―隠蔽された北関東連続幼女誘拐殺人事件』(新潮文庫)の著者、清水潔が、元裁判官で『絶望の裁判所』『ニッポンの裁判』(ともに講談社現代新書)の著者、瀬木比呂志との対談を希望したことで実現した。仕事柄、警察官や検察官、弁護士などと向き合うことが多い清水だが、裁判所や裁判官について何も知らないも同然であることに気づいたからだ。

 法廷の壇上にたつ黒い法服姿の人はどんな人たちでどのくらいの報酬で、普通の日は何をしているのか。そんな俗物的興味とともに、なぜ刑事裁判の有罪率が九九・九%なのか、なぜ民事裁判の国家賠償請求は原告が勝つことが難しいのか、何より『殺人犯はそこにいる』で清水が追及した真犯人が捕まらないのはどうしてかを瀬木にぶつけてみたのだ。

 三日間に及んだインタビューをギュッと濃縮した本書にはジャーナリストの清水でさえ驚愕した裁判所と裁判官の真実が詰まっている。

 話は、なぜ法廷では裁判官だけ立派な椅子なのか、黒い法服の下は何を着ているのか、法廷に遺影を持ち込めない理由など身近なことから始まる。法服を着たらトイレに入れない、というのには驚いた。

 裁判官の世界は相撲の番付より細かいヒエラルキーに牛耳られており、罪状や案件ごとに出される判決は、昨今では他の判決のコピペで済ましている、とはなんたることか。

 服務規律は明治二〇年の勅令のままで、再任制度は裁判機構や上司に都合が悪い者を排除する欠席裁判であり、裁判官の犯罪の増加する理由など、保身に走る裁判官の木端(こっぱ)役人ぶりには情けなくなる。

 後半になると、裁判官が法務省へ出向して弁護を行うという驚くべき事実を突きつけられ、原発再稼働差し止めの判決を下した裁判官が懲罰人事のように左遷された事実に胸が痛くなった。つい先ごろ行われた共謀罪での国会答弁における、金田勝年法務大臣の情けない体たらくの意味も本書を読んで初めてわかった。

 立法・行政・司法の三権のうち、せめて司法だけでも立て直さなくてはならない、という瀬木の意気は十分伝わった。長いものに巻かれているうちに、国は勝手に暴走する。それを止めるために国民は事実を知らなくてはならない。強くそう感じた。

新潮社 週刊新潮
2017年6月8日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク