産む・産まない自由の選択。女性が自分の人生を生きるには?

インタビュー

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わたしが子どもをもたない理由(わけ)

『わたしが子どもをもたない理由(わけ)』

著者
下重暁子 [著]
出版社
かんき出版
ISBN
9784761272555
発売日
2017/05/24
価格
1,210円(税込)

産む・産まない自由の選択。女性が自分の人生を生きるには?

――一方で子どもをもつ人ともたない人の間には、言葉にしないまでも「親になってこそ一人前」という、見えない壁があるような気がします。

私はときどき「あなたは子どもをもっていないから、子どものことなんて分からないでしょう」と言われることがあるのですが、とんでもないです。私も昔は子どもでした。身体が弱くていつもひとりでいたから、たくさんのことを考える、とても敏感な子どもでした。だから、子どもの頃に大人を見ていてどう思ったか、というのを思い出せば分かるわけです。過去に子どもじゃなかった人なんていないから、みんな分かるはずなのですが、自分の子どものこととなると途端に見えなくなってしまう。私が子どもと接するとき、それは自分の子どもじゃないから余計分かるんですよね。子どもの頃、母親のあれが嫌だった、大人のこういうところが嫌だった……なんて思い出すと、親子関係なんて時代が変わっても何も変わらないんだな、と思います。永遠のテーマですね。

――先生は、子どもをもつことは、その人の人生を豊かにしてくれると思いますか?

本来はそうだと思います。でも、子どもを産み育てるという経験がその人の視野を広げるはずなのに、実際は逆に狭まっている人が多い気がします。それは、自己表現の手段を他に持っていない場合が顕著。私のまわりには、子どもを持たずに仕事で自己表現をしている魅力的な女性がたくさんいます。子どもがいないぶん、子どもに気をとられないで自由に自分の道を歩んでいる。そして少数ですが、子どもをもちながらも視野が狭まっていない人もちゃんといます。彼女たちは、仕事で自分を表現してバランスを取っている。仕事をしながらの育児はきついでしょうけれど、子どもにべったりにならず、むしろ活き活きと輝いている。女性が自分の人生を生きるためには、経済力と決断力です。自分で食べられなきゃいけないし、自分で決められなきゃいけない。そのふたつがあれば、自分で選択したことに責任を持つ自由な生き方ができます。私もこの両方を獲得するまでが大変でしたが、その後はラクになりました。

――社会に出て仕事=自己表現をするということが、個として生きる糧になるのですね。

子どもがいると、家族というのは父、母、子どもがそれぞれ内側を向いた三角形の配置になりがちです。本当は横並びで3つあるだけがいいのですが、内向きの三角形だと周りが見えなくて、まったく緊張感のないワガママ放題の団体になってしまう。子どもがいるというだけで、すべてを子ども中心にしてしまうから、会話も子どものことだけ。家族という役割に甘んじてしまうのです。子どもがいない夫婦がいつまでも男と女でいられるとしたら、それは緊張感を継続しているということ。子どもに逃げるということがなく、面と向かって会話している。家族もそれぞれ違う人なのだということを思い出して欲しいです。世の中には、子どもが成長して巣立った後、もういちどふたりで向き合わなきゃいけない段になって、会話が噛み合わない、価値観も合わないという夫婦が多いようです。表面を繕って世間から幸せそうだと思われたとしても、結局自分の心の中はごまかせません。そういう意味でも、個としての緊張感を持ち続けたいと思いますね。

――では最後に、個人的にオススメしたい本を一冊教えてください。

最近、丸善の書評誌で私が書評した恩田 陸さんの小説『蜜蜂と遠雷』です。この作品はその後、直木賞と本屋大賞をW受賞されました。ストーリーは第1次予選から3次予選、本選へと進むピアノコンクールを軸に構成され、それだけでも相当ドラマチック。読むと恩田さんがいかに音楽というものを深く理解されているかというのが分かります。技術を追い求めて心を失った音楽を伸びやかでおおらかな本来の姿に戻そう、自然に帰そう、というのがこの小説のテーマ。いま世界全体が内向きの時代になってきていますが、そうではなく視野を外に向けて広げること、既存の枠に捕われずに伸び伸びと生きることの大切さを教えてくれる本です。子どもの教育という視点でも、おおいに考えさせられます。現実は小説のようにうまくいくわけではないけれど、でも一番大事なことは子どもの才能の芽を摘まずに伸ばすこと。天才と呼ばれる人には神様がついている。私はそういうものを信じています。芸術に限らず、どの分野にもあると思いますね。

文/土谷沙織

かんき出版
2017年6月21日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

かんき出版

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