“評価されない創作者”135人 アウトサイダー・アートの発掘者

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アウトサイド・ジャパン

『アウトサイド・ジャパン』

著者
櫛野展正 [著]
出版社
イースト・プレス
ISBN
9784781617138
発売日
2018/09/16
価格
1,980円(税込)

埋れた創作者を発掘するユニークな異能のキュレーター

[レビュアー] 都築響一(編集者)

 たまには美術館でも、と行ってみたらよくわからない作品ばかりで「???」、でも「わからない」とは言いづらい……という体験をした人は多いだろう。知的な遊戯と化しつつある現代美術界を補完するように、近年アウトサイダー・アート/アール・ブリュットへの注目度が高まっている……が、「2020年のオリンピック・パラリンピックに向けた障害者の芸術文化振興」とか厚生労働省が言い出すまでになると、ちょっと待ってと言いたくもなる。

 専門の美術教育を受けないまま、独自の創作世界を歩む人々は世界中で新たな評価を受けつつあるが、日本ではそれがほとんどの場合、福祉との結びつきで語られるという特殊な状況にある。

『アウトサイド・ジャパン』の著者・櫛野展正もまた福祉の業界からスタートしながら、しだいにその外側へと目を向けるようになり、いまやみずから「日本唯一のアウトサイダー・キュレーター」を名乗るまでになった、異能の発掘者である。

 家のまわりをわけわからないメッセージやオブジェで飾り立てたり、庭に手づくり五重塔を建ててみたり、そういう「街の奇人変人」が、あなたのそばにもきっといるだろう。福祉の現場とは別の場所で。著者が日本全国を歩きまわり、巡り会ってきたそのような「評価されることのない創作者たち」の、135の魂(たましい)がこの本に詰め込まれている。

 孤独な長距離走者たちをお笑いのネタにしかできないテレビ番組が平然と垂れ流されるなかで、こうしたフィールドワークがどれほど貴いものであるか。著者がずっと体験してきたように、本書からもこれから多くのパクリ番組や記事がつくられるだろうが、走者たちと同じく伴走者たる彼にも、もう沿道の賞賛も罵声も耳に入っていないだろう。

 これだけの情報量を限られた紙面に収めた、ブック・デザインの手腕も特筆に値する。

新潮社 週刊新潮
2018年10月11日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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