【文庫双六】ヴィヴィアン・リーのもう一つの代表作といえば――梯久美子

レビュー

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欲望という名の電車

『欲望という名の電車』

著者
テネシー・ウィリアムズ [著]
出版社
新潮社
ジャンル
文学/外国文学小説
ISBN
9784102109069
発売日
1988/04/08
価格
649円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

ヴィヴィアン・リーのもう一つの代表作といえば

[レビュアー] 梯久美子(ノンフィクション作家)

【前回の文庫双六】荷風も読んでいた英の“世紀末詩人”――川本三郎
https://www.bookbang.jp/review/article/567033

 ***

 マーガレット・ミッチェル『風と共に去りぬ』のタイトルが、アーネスト・ダウスンの詩からとられていることを、前回の川本三郎氏の文章を読んで初めて知った。主語はCivilizationとのこと。では風と共に去ったのは、ヒロインのスカーレットたちが属していたアメリカ南部の上流文化ということか。なるほど。

 10連休の最終日、この映画がNHK・BSで放映された。チャンネルを合わせたら、冒頭のメインタイトルの後に、このフレーズを含むダウスンの詩の引用がテロップで映し出された。何度か見た映画だが、今回初めて気がついた。

 ヴィヴィアン・リーの、表情によって思いきり左右非対称になる眉や、異常に細いウエストに目を奪われているうちに、3時間半を超える長編を最後まで見てしまった。

 この作品でヴィヴィアン・リーは1939年のアカデミー賞主演女優賞を得たが、12年後の1951年にも同賞を受けた。その作品はテネシー・ウィリアムズの戯曲を映画化した『欲望という名の電車』。彼女が演じたブランチ役はある意味汚れ役で、その演技は凄絶にして哀切、眉だのウエストだの、そんなものはもう眼に入ってこない。

 舞台はニューオーリアンズのフレンチ・クォーター。ブランチは南部の落ちぶれた名家出身の未亡人で、諸事情から地元にいられなくなり、妹とその夫の家に身を寄せる。

 こちらのタイトルは、ブランチが最初に登場する場面で、「欲望」という名の電車に乗って、「墓場」という電車に乗りかえてここまで来たと話す台詞からとられている。

 訳者の小田島雄志によれば、この戯曲は最初、『月光のなかのブランチの椅子(いす)』という題で書き始められ、『ポーカーの夜』と改題され、最終的にこの題名になったという。フレンチ・クォーターのロイヤルという通りには実際に、「欲望」「墓場」という二系統の電車が走っていたそうだ。

新潮社 週刊新潮
2019年5月23日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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