古典文学をボーイズラブ化したらどうなる? 注目シリーズ第3弾

レビュー

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BL古典セレクション3 怪談 奇談

『BL古典セレクション3 怪談 奇談』

著者
王谷晶 [著]/ラフカディオ・ハーン [著]/中村明日美子 [イラスト]
出版社
左右社
ISBN
9784865282405
発売日
2019/07/01
価格
1,870円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

「雪おんな」に「耳なし芳一」もボーイズラブ化された怪談奇談

[レビュアー] 石井千湖(書評家)

 古典文学の現代語訳はいろいろあるけれど、さらにボーイズラブ化したらどうなるか。本書は大胆な試みで注目を集める「BL古典セレクション」シリーズの第三弾だ。『完璧じゃない、あたしたち』で女たちの世界を鮮烈に描いた王谷晶が、小泉八雲ことラフカディオ・ハーンの『怪談・奇談』を男同士の愛の物語にリメイクしている。

 最初の「雪と巳之吉」は、無口な木樵の巳之吉が雪と呼ばれる美しい男に出会う話。雪女が雪男に変わっただけで原作の「雪おんな」にかなり忠実だ。しかし巳之吉が可愛い。例えば雪に自己紹介するくだり。巳之吉は〈木樵をしている。この辺の山には全部入った。ど、どんな木でも伐れる〉とたどたどしく職業を説明して、唐突に〈独り立ちしてる〉と付け加える。一目惚れした雪の関心を自分に引きつけようとして、何をしゃべっているのかわからなくなっているのだ。初めて雪を抱くときも〈したいこと、なんでもしてみな〉と言われて、その通りにしながら〈乱暴だけはしなかった〉というところがいい。二人は夫婦同然の関係になり、幸せに暮らすのだが……。巳之吉が純粋で優しい男だからこそ、結末の悲しさが際立つ。

 自分を助けてくれた人間に恩返しをした鮫人(こうじん)の滑稽で痛切な告白に胸をえぐられる「男の友情」、耳なし芳一と鎧武者の怨霊のプラトニック・ラブに身悶えさせられる「琵琶を弾く男」など全九編を収録。いずれも原作を知らなくても面白い。

 ただ、もし機会があれば「契り」は原作と読み比べてみてほしい。王谷さんは武士とその妻の関係を渡世人の義兄弟に置き換えている。侍と極道。どちらもメンツを重んじるために亡き妻、亡き弟分との約束を破ってしまう。激怒した死者は、なぜ破約した本人ではなく、新しい妻や新しい弟分を酷い目に遭わせるのか。その問いに対する答えは、BLバージョンのほうが断然生々しく恐ろしい。

新潮社 週刊新潮
2019年7月25日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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