再現してみた理想の居洒屋

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空想居酒屋

『空想居酒屋』

著者
島田 雅彦 [著]
出版社
NHK出版
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784140886434
発売日
2021/01/12
価格
1,045円(税込)

書籍情報:openBD

再現してみた理想の居洒屋

[レビュアー] 渡邊十絲子(詩人)

 酒飲みならば、かつて訪れたあの店この店で出会った美味の思い出は、いくらでも語れるだろう。深夜ひとりで酔いに身をまかせているときなど、楽しい記憶に少しずつ妄想がまじり、脳内に理想の酒場ができあがることもあるかも。

 島田雅彦『空想居酒屋』は、そんな空想遊びに現実としての骨格を与え始める。酒があって酒飲みがいれば場所はどこであれ酒場。脳内にある理想の居酒屋をそこで部分的に再現することはできる。子どものママゴト遊びにも似ているが、しかしこちらは実際に酔える酒を飲むのである。

 まずは、理想の居酒屋を構成する材料集めだ。外国でも近所でも酒を飲み、つまみを味わう。飲食だけが大切なのではなくて、メニューを含めた酒場体験が全体として客にどんな恵みをもたらすかを考える。たとえば、痛飲したあと二日酔い防止のスープが飲める店のありがたさ。また、近所の居酒屋の常連になれば、月に数万円の出費で安否や健康状態を確認してもらえるという、町のセーフティネット機能のこと。理想郷を思い描くからには、飲食の「背景」もちゃんと考えたいのだ。

 飲み歩きのあとは実践編。キャリーバッグに天ぷら鍋を結びつけ、カフェのオープンテラスを借りて包丁をふるう。ひとりで開く酒場としては豊かな品揃えだが、それを実現するための工夫も書かれていて参考になる。大人のみなさん、遊ぶときはこんなふうに本気を出しましょう。楽しいから。

新潮社 週刊新潮
2021年3月11日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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