『もう死んでいる十二人の女たちと』
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記憶は反復され、色濃くなる
[レビュアー] 三浦天紗子(ライター、ブックカウンセラー)
韓国の民主化運動を軍が武力弾圧した光州事件や、福島第一原発の事故、あるいはフェミサイド(女性殺人)に触発されたという八編。韓国現代文学の重要作家のひとりだというパク・ソルメの作品群から編んだ日本版オリジナル短編集だ。語り手は事件の渦中にいたり同時代を生きていたりはしておらず、「その後」の物語として描かれる。過酷な出来事はどんなふうに波紋を広げていくのか。読者は現実と地続きにいるような人物を介し、彼らが感じる怒りや屈辱や虚しさを追体験する。
表題作は、キム・サニという連続強姦殺人犯を、被害者たちが何度も殺す光景を、語り手の女性が語るところから始まる。キム・サニが殺した五人の被害者たちだけでなく、彼の事件に影響されたミソジニー殺人の被害者七人の分も合わせた憎しみ、さらにはそうした事件が絶えず繰り返されている世界に生きているすべての女性たちによる憎しみによって、キム・サニは何度でも殺される。彼の実際の死因は交通事故だが、それで何が終わったというのだろう。フェミサイドを考察し、空想の中でさまざまなやり方で復讐しても、女性が女性であるというだけで味わう理不尽な危険や恐怖は、相変わらず道を歩いているだけの女性にも降りかかる。
語り手も読者も実際の事件とは遠い時空で生きているはずなのに、苦しみは再生産され、いまなお生きている人たちの記憶に留(とど)まり続けている。遠いからこそ、なすすべのなさが思い出され、重ね塗りされて色濃くなっていく。ちなみに装幀に使われているロドニー・ムーアの絵は、十七年もの歳月をかけて塗り重ねられたものだという。シックで寡黙にさえ見える模様が、読後、とても雄弁に見えてくる。