徒手空拳で政治家に迫る56歳著者の成長物語

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徒手空拳で政治家に迫る56歳著者の成長物語

[レビュアー] 立川談四楼(落語家)

 著者は56歳のフリーライターで、相撲と音楽を主戦場にしているが、コロナ禍の前から仕事が減り、バイトにも励んでいる。

 2020年7月、著者は衆議院議員の小川淳也氏を追ったドキュメンタリー映画『なぜ君は総理大臣になれないのか』を仕事で見る。小川氏と監督の大島新氏から話を聞き、ウェブサイトに記事を書くためだ。

「1回目はボロ泣きで冷静に見られず、2回目はじっくり見た」。その後、著者は小川氏に感情移入していることに気づき、インタビューできないかと切に願い、動き出す。

 周囲の助けもあり実現するが「まさかノープランで来るとは!」と小川氏に驚かれる始末で、それぐらい著者は政治に無知だった。しかし著者は食い下がり、関連書籍を大量に読み込む(巻末に「政治問答ブックリスト」として掲載)。

 しかし読めば読むほど疑問が増え、著者はそれを小川氏にぶつける。小川氏は誠実に答え、両者の質疑応答がやがて噛み合う。著者の成長に読者が共感を覚える瞬間である。

 著者は言い出し難かったことを最後に聞く。「今、日本社会の片隅で働く人たちへ、小川さんの言葉をいただけたら」と。小川氏はここで涙を流しながら全身全霊で答える。他にも読むべき箇所は随所にあるが、この小川氏の言葉だけでも本書を読む価値があると思う。

 他人事ではなかった。「県境を跨ぐな」と政府が言えば、それは地方公演が消えるという日々だったからだ。役者やミュージシャン、飲食店もこの1年半をそう過ごしてきた。著者は痛めつけられた人の代表として政治家と向き合っていたのだ。

 自民党総裁選の候補者が「私が総理になったら」と未来を語っていた。コロナ禍に口をつぐんできたくせにと思う。選挙がいかに大事かをあらためて思い、決して棄権だけはすまいと固く決意する。さあ総選挙だ。

新潮社 週刊新潮
2021年10月7日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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