死をめぐる社会の方向転換

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無葬社会

『無葬社会』

著者
鵜飼 秀徳 [著]
出版社
日経BP
ジャンル
社会科学/経営
ISBN
9784822238568
発売日
2016/10/28
価格
1,836円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

死をめぐる社会の方向転換

[レビュアー] 稲垣真澄(評論家)

 前著『寺院消滅』は、主として地方で進む寺院の疲弊――人口減がそのまま檀家減となって現れ、やがて無住化(住職のいない寺)、兼務寺院化(一人の住職が複数寺院を担当)、さらには廃寺にまでいたる様子を、現場ルポのかたちで伝える異色のノンフィクションだった。

 続編である本書では、寺院のそうした困難からはいったん離れる。寺院に困難をもたらした背景、社会の流れの変化に目を転ずる。具体的には、死をどのように受け止めるか、受け止めた上でどのように死者を送るか、という一点に軸足を定めた場合に、見えてくる社会の急角度な方向転換に迫ろうというのだ。著者は新聞社系雑誌社の記者で、ここでも現場主義の取材方法は貫かれる。

 死は単純な出来事ではない。さまざまな側面を持つ。一人の死は、当人の死であると同時に社会にとっての死であり、死の前後には一定の手順がある。そのつど多くの人を煩わせるわけで、著者が赴くべき取材現場もじつに多岐に及ぶ。

 第一章「彷徨う遺体と遺骨」は、大都市の人口急増と火葬設備の拡充とがパラレルでないために生じた「火葬一〇日待ちの現実」や、遺体を預かる「遺体ホテルの繁盛」、超高齢社会ゆえの「孤独死の悲劇」や、孤独死現場を清掃する人たちの仕事などが紹介される。

 第二章「変わりゆく葬送」では、死よりも、残された者たちにとっての墓の問題がテーマ。大都市への人口集中は、当然田舎の墓の「墓じまい」と都会への移転を促す。しかし都会には受け容れるスペースが足りない。散骨や樹木葬、永代供養を掲げる各種集合墓や納骨堂の流行は、いずれもスペース節約型の新しい墓の模索、と見ることもできよう。

 第三章「縁を紡ぐ人々」は、死の手前、生きている人間の苦悩を少しでも分かち持とうとする僧侶たちの活動の紹介だ。路上生活者のために「結の墓」を建てたり、おにぎりを届けるボランティア活動を続ける東京・山谷の僧侶。商店主らと協力して、シャッター街になりかかっていた地元に、かつての賑わいを取り戻した名古屋の名刹の住職……。

 おそらく一般の人が抱く理想の仏教者像もこの辺にあるのだろうが、第四章「仏教存在の意義」での仏教学者佐々木閑氏の指摘も面白い。ブッダ以来、生産に従事せず人々の布施(喜捨)によって生きることを選んだ僧たちは、自らの生活を厳しく律し、修行に専念する姿を人々に見せることで社会に返礼した(日本仏教は異なる)。今それに最も近いのは、基礎科学の世界だという。利益を生むか否かも分からぬテーマに、研究者は布施(研究費)を頂いて取り組む。返礼は、真摯に、しかし楽しんで研究する姿を社会に見せることのみ。その基礎研究も徐々に苦しくなりつつあるという。

新潮社 新潮45
2016年12月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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