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【年末年始お薦めガイド】私が選んだBEST5 川本三郎
[レビュアー] 川本三郎(評論家)
犯罪は悲しい。被害者だけではなく加害者もまた暗い過去を背負っている。
桜木紫乃『氷の轍』は釧路で起きた殺人事件を追う刑事が札幌から青森、八戸へと捜査の旅を続ける。
犯人が分かった時、昭和の貧しさを生きた人間の悲しみが浮き上がる。
『いつか見た映画館』の著者、大林宣彦監督は昭和十三年生まれ。七歳の時、終戦を迎え、その直後から、映画の洗礼を受けた。
昨日まで敵国だったアメリカ映画に「目が眩むほどの衝撃」を受けた。明るく豊かで民主主義の精神にあふれていたから。
辞典なみの大著。シニアには懐しい映画ばかり。
台湾はいま、かつてないほど日本人に愛されている。台湾の人間も日本人を受け入れてくれる。相思相愛。
鄭鴻生『台湾少女、洋裁に出会う』は、日本統治下の台南で育った女性(著者の母親)が、洋裁の楽しさを知り、戦後、洋裁学校を開き、成功してゆく。
女性の自立が難しかった時代に、手に職を持ち、洋裁でわが道を生きる。少女時代、日本の婦人誌『装苑』を見て独力で洋裁を学んだというのが面白い。
キンヌネン『四人の交差点』は珍しいフィンランドの小説。十九世紀末から二十世紀末までの家族史。
ここでも女性の自立が難しかった時代に、助産師として生きた祖母の物語から始まる。そして第二次世界大戦(ドイツと共にソ連と戦った)を経て現代へ。
この北国では近年まで同性愛は男女とも禁じられていたという。法律で罰せられた。そのことが物語に秘密を、暗いかげりを作る。
『山之口貘詩集』は、いまも愛され続けている沖縄生まれの詩人の作。決して難解ではない。誰もが使う普通の言葉で、放浪を、貧しい暮しを語る。
飄逸なユーモアが現代人の冷えた心を慰める。