• 地下にうごめく星
  • りさ子のガチ恋♡ 俳優沼
  • 折りたたみ北京 現代中国SFアンソロジー
  • サブカルの想像力は資本主義を超えるか
  • 庭

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大森望「私が選んだベスト5」

[レビュアー] 大森望(翻訳家・評論家)

 新緑の候にふさわしく、新しい世界を教えてくれる(かもしれない)本を5冊選んでみた。いい年してアイドルにハマって人生が一変する……そんな魔法の一瞬を鮮烈に描くのが、渡辺優『地下にうごめく星』。主人公は、オフィス用品メーカーに勤める40代後半の女性会社員。同僚に誘われて初めて訪れたライブで、カエデという地下アイドルと電撃的に出会い、自分が彼女のプロデューサーになろうと決意する。

 一方、松澤くれは『りさ子のガチ恋 俳優沼』の主人公は、26歳、彼氏なしのOL。若手イケメン俳優にハマって、歴代総理をイケメン化した人気スマホ恋愛ゲームが原作の、いわゆる2・5次元舞台に通いつめる。地下アイドルや2・5次元を遠く感じる人こそぜひ手にとってください。

『折りたたみ北京』は、日本でも話題になった『紙の動物園』の著者で、中国語SFの翻訳者・紹介者としても活躍する大スター、ケン・リュウの編訳による英語版・現代中国SF傑作選の邦訳。いずれも驚くほどレベルが高いうえ、英訳を経由することで、日本の読者にはより馴染みやすくなっている。

 大澤真幸『サブカルの想像力は資本主義を超えるか』は、早稲田大学文化構想学部で行われた2016年度の講義録。『シン・ゴジラ』と『砂の器』、『おそ松さん』と「バートルビー」、『君の名は。』と『逃げ恥』等のフィクションが持つ現実との関わりをわかりやすく解き明かす。

 小山田浩子『庭』は、全15編のストレンジ・フィクション集。家族や家など、見慣れた世界に生じた裂け目から裏側を垣間見たり、異世界に入り込んだり。筒井康隆が純文学誌に書きはじめた頃を彷彿とさせるような巻頭の傑作「うらぎゅう」から、小山田ワールドに踏み込んでほしい。

新潮社 週刊新潮
2018年5月3日・10日ゴールデンウィーク特大号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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