京大の「自治の精神」を支える吉田寮と、そこで暮らす学生の姿

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京大吉田寮

『京大吉田寮』

著者
平林 克己 [写真]/宮西 建礼 [解説]/岡田 裕子 [解説]
出版社
草思社
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784794224255
発売日
2019/12/04
価格
2,200円(税込)

書籍情報:openBD

大学当局は目の敵?! 自治の精神を支える「西の魔窟」の風景

[レビュアー] 渡邊十絲子(詩人)

 京都大学吉田キャンパスにある吉田寮は、現存する学生寮のなかで最古の木造建築だ。建築後まだ数年の新棟もあわせての「吉田寮」なのだが、大学当局は2017年、老朽化などの問題があるとして、すべての寮生に退去を命じた。

 この本は、先の見えない状況のなかで吉田寮を記録しておこうという試みのひとつ。寮そのものと、そこで暮らす学生たちの姿が、写真と証言でいきいきと記されている。

 この建物をわたしはひそかに「西の魔窟」と呼び、カオスと言うほかはない各部屋のようすを見たいと思っているが果たせていない。単なる見物は、暮らしている人に失礼な気がするのだ。「東の魔窟」東大駒場寮はじっくり見たことがあるが、こちらは1991年から始まった廃寮計画が2001年の強制執行によって完了し、すでに存在しない。魔窟好きとしては本当に壊してほしくないが、かたちあるものはいつかはなくなる。せめてこの魅力的な写真のかずかずを味わおうと思う。

 50代になってから、どうしても学び直したくて銀行を辞めた男性。初めて吉田寮を見学した時、年齢制限があるかと学生に尋ねると、「ここは京都大学の吉田寮です。人を年齢や人種、性別で差別することがあるはずがない。そんな人には入ってもらわなくていいです」と一喝され、入寮を決意した。またある女性は、両親がともに寮生で、この寮で育った。「あのときの赤ん坊」は、20年の時を経て京大生になり、入寮。

 原則的に、複数人ごとに数部屋が割り当てられ、一室を寝室、一室を勉強部屋にするなどして赤の他人と同居する。上回生にも敬語は使わない。運営はすべて寮生の総会で決まり、多数決はせずに全員の意見が一致するまで話し合う。いろいろな時代の雰囲気が重層的に残る魔窟の風景こそがこの自治の精神を支えているのだと、わたしは信じている。

新潮社 週刊新潮
2020年1月16日迎春増大号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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