『私の追憶 : 高田保馬自伝』
- 著者
- 高田, 保馬, 1883-1972 /吉野, 浩司, 1971- /牧野, 邦昭
- 出版社
- 佐賀新聞プランニング
- ISBN
- 9784882982593
- 価格
- 2,530円(税込)
書籍情報:openBD
<書評>『高田保馬(やすま)自伝「私の追憶」』吉野浩司、牧野邦昭 編
[レビュアー] 根井雅弘(京都大教授)
◆社会・経済学に大きな足跡
今年は、日本の社会学と経済学に大きな足跡を残した高田保馬の没後五十年に当たっている。それを記念するかのように、かつて雑誌『週刊エコノミスト』に連載された自伝「私の追憶」(一九五七〜五八年)が新たに編纂(へんさん)され出版された。まずはその労を多としたい。
高田は二十世紀の天才経済学者、ケインズやシュンペーターと同じ年に、佐賀県小城郡三日月村(現小城市三日月町)に生まれている。佐賀中学、第五高等学校を経て京都帝国大学文科大学哲学科に進学したが、当初専攻したのは社会学であり、欧米の学問動向に詳しかった米田庄太郎に師事し、一九一九年に名著『社会学原理』を著している。
本書で、京都帝大時代から、広島高等師範学校、東京商科大学、九州帝国大学に移って社会学や経済学を教えたことを回顧している。昭和初期に京都帝大専任教授になってからも、東京や九州の学者たちとの交流は続いた。
本書を読むと、高田は生涯を通じて何度も胃腸を病んでいるが、そのたびに母親のいる故郷に帰り、静養を経て復帰しているのがわかる。県内の多くの学校の校歌をつくるなど故郷をこよなく愛した。
編者の一人は、農村で暮らしたことが高田の「群居の欲望」の発見につながったと理解している。それは利益や利害などの目的のない共同社会を生むための根拠だが、高田の社会観を根底から支える土台として注目している。地元でも高田を慕う県民たちによって顕彰会が創られ、現在も活動中である。
高田は、経済学では市場全体の需要と供給は一致するという一般均衡理論の導入に積極的にかかわった仕事や、社会的勢力と賃金との関係などを論じた『経済学新講』全五巻(二九〜三二年)が有名である。この時代の日本で外国にも評価された社会学者にして経済学者は高田ひとりと言ってよい。
戦後は誤解されて一時教職追放されたが、処分が取り消されて復帰してからは阪大などでも教鞭(きょうべん)をとった。波乱に富んだ生涯は読む者をひきつけてやまない。
(佐賀新聞社・2530円)
1883〜1972年。大正−昭和の社会学者、経済学者。歌人としても評価が高い。
◆もう1冊
森嶋通夫著『なぜ日本は没落するか』(岩波現代文庫)。高田を敬愛した理論経済学者の晩年の代表作。