1本のカセットテープから始まる誕生秘話

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松田聖子の誕生

『松田聖子の誕生』

著者
若松 宗雄 [著]
出版社
新潮社
ジャンル
芸術・生活/音楽・舞踊
ISBN
9784106109607
発売日
2022/07/19
価格
902円(税込)

書籍情報:openBD

1本のカセットテープから始まる誕生秘話

[レビュアー] 碓井広義(メディア文化評論家)

 松田聖子がデビュー曲『裸足の季節』と共に登場したのは1980年4月。突然現れて一気にトップアイドルとなった印象だが、その背後には様々なドラマがあった。若松宗雄『松田聖子の誕生』は、当事者である音楽プロデューサーが語る「誕生秘話」である。

 事の始まりは78年の5月に届いた1本のカセットテープだ。オーディションに応募してきた福岡県久留米市の高校生、蒲池法子の歌だった。その「清々しく、のびのびとして力強い」歌声は若松を圧倒した。

 とはいえ、デビューは簡単なことではない。芸能界入りに反対する父親。若松が所属するCBS・ソニー社内の薄い反応。そして難航するプロダクション探し。中には「ああいう子は売れない」と断ってきた事務所もあったほどだ。

 ところが、若松は決して諦めない。自分の直感と聖子の才能を一度も疑わないのだ。その「想い」の強さが、いくつもの壁を突破する力となっていく。

 当時、アイドル歌手として歌謡界の中軸にいたのは山口百恵だ。南沙織のアンチテーゼである百恵は、過去のアイドルと一線を画する独特の存在だった。いわば、その百恵を否定する形で出てきたのが、誰にも似ていなかった聖子なのだ。

 若松は言い切る。「私でなければ松田聖子をデビューさせることはできなかった。なぜなら私だけが彼女の可能性を信じ、見抜いていたからだ」。本書は昭和歌謡曲史の空白を埋める、貴重な回想記だ。

新潮社 週刊新潮
2022年9月1日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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