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大森望「私が選んだベスト5」 夏休みお薦めガイド
[レビュアー] 大森望(翻訳家・評論家)
英米SF史上もっとも有名なアンソロジーと言えば、ハーラン・エリスン編『危険なヴィジョン』。SF界を揺るがした革命的な競作企画だが、なにしろ実験的・野心的な作品が多くて翻訳に骨が折れる。そのせいか、3分冊の1巻目が1983年に出たきり、日本では幻の本となっていた。それが今年、原書刊行から52年を経て、ついに新たな『完全版』全3巻の邦訳が完結した。第1巻のファーマー、第2巻のライバー、第3巻のスタージョンなど、良くも悪くも強烈な個性を持つ作品が揃う。各編につくエリスンの長い長い序文だけでも一読の価値あり。
宮部みゆき『さよならの儀式』は“ちゃんとSF”を書くことを目指した著者初のSF短編集、全8編。ロボット、時間旅行、宇宙人……当代最高のストーリーテラーが定番のSFネタをどう料理するかが見物。
里中高志『栗本薫と中島梓 世界最長の物語を書いた人』は、正編130巻と外伝22巻あわせて累計発行部数3300万部を誇る《グイン・サーガ》の著者の生涯を克明にたどり、書くことへの“妄執”のルーツを探る抜群に面白い評伝。
鏡明『ずっとこの雑誌のことを書こうと思っていた。』は、1958年から63年にかけて久保書店から刊行されたハードボイルドミステリ(+α)の雑誌〈マンハント〉を軸に、アメリカと日本のポップカルチャーについて縦横無尽に語りまくる。中心より周縁に関心を持ち続ける鏡明らしい、スリリングな名著。
最後の1冊は、(二度めの)芥川賞落選の憂き目に遭った古市憲寿の第2長編『百の夜は跳ねて』。話題先行みたいに思われがちだが、就活に失敗して高層ビルの窓拭きになった主人公の目を通して“窓の中”を覗き見る模範的な現代小説。学習能力が高すぎるのが逆に弱点かもしれない。