『吸血鬼』
書籍情報:JPO出版情報登録センター
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『すべての見えない光』
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誰でも投票可!小説愛に満ちた文学賞の今年は〈トヨザキ社長のヤツザキ文学賞〉
[レビュアー] 豊崎由美(書評家・ライター)
ツイッターをやっている人なら誰でも投票できるのが、Twitter文学賞です。一年間に出た国内・海外それぞれの新刊小説の中から、一番好きな一作に票を投じるというシンプルなルールのこの賞が始まったのは二○一○年。
出版社が主催する著名な文学賞や、企業が協賛する本屋大賞とはちがい、後ろ盾がないので賞金はなく、受賞作家には(海外部門は翻訳者にも)、あみぐるみ作家・アルマジロひだかさん製作によるトロフィーが贈られるのみ。賞金がないどころか、逆に受賞作の版元は、投票者の中からくじで選ばれた人に一万円分の自社刊行小説をプレゼントしなくちゃいけません。運営スタッフは全員無償奉仕。日本で一番小さくて貧乏な文学賞なんです。
が、しかし、投票結果は素晴らしいっ! ベストテン作品はもちろん、毎年一二○タイトル以上にもなる一票獲得作品に至るまで、こんなに投票者の愛情と熱意が伝わる賞を、トヨザキは他に知りません。一票しか投じられないTwitter文学賞の順位は、小説が好きな人たちの一位の集積です。投票された作品はどれも、誰かにとっての一位なのです。総投票数は毎年一二○○前後ですが、その一票一票に顔があり、価値が重い文学賞なのです。
これまでの一位作品を紹介しますと、第一回が盛田隆二『二人静』とミランダ・ジュライ『いちばんここに似合う人』、第二回が津原泰水『11 eleven』とジュノ・ディアス『オスカー・ワオの短く凄まじい人生』、第三回が小田雅久仁『本にだって雄と雌があります』とウラジーミル・ソローキン『青い脂』、第四回が松田青子『スタッキング可能』とローラン・ビネ『HHhH─プラハ、1942年』、第五回が木下古栗『金を払うから素手で殴らせてくれないか?』と閻連科『愉楽』、第六回が舞城王太郎『淵の王』とケン・リュウ『紙の動物園』。そして第七回受賞作が、佐藤亜紀『吸血鬼』とアンソニー・ドーア『すべての見えない光』です。