縄田一男「私が選んだベスト5」 夏休みお薦めガイド

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縄田一男「私が選んだベスト5」 夏休みお薦めガイド

[レビュアー] 縄田一男(文芸評論家)

おもちゃ絵芳藤(よしふじ)』は、作者の新たな代表作。

 歌川国芳の死後、幕末から明治にかけて、その門下たちがどう生きたかを、歌川芳藤を中心に描いていく。仲間たちが、ある者は新しいものを取り入れ成功し、ある者は失敗する中、後家となった国芳の娘お吉の恋慕すら退け、ただただ、芳藤が子供相手の玩具絵という小宇宙を守り抜く姿は切ないほどだ。

煌(きらり)』は、花火等の音や光を通して、江戸を生きる人人の一瞬の絆を見事に描き出した全六話からなる作品集だ。

 物語には、いずれも“なぜ”が仕組まれており、それが高い文学性や絶妙のオチにつながっている。この一巻を読むと、人間の生きる覚悟というのは、今も昔も変わらない、とつくづく思わずにはいられない。

猫の傀儡(くぐつ)』は、猫のミスジが、新米の傀儡師となって、売れない狂言作者・阿次郎を操り、猫社会と人間社会の間に起こる様々な怪事件や難事件を解決していく連作集。化け猫のようにガブリと人の喉に喰らいつくこともなく、こちらは、ミステリー色濃厚な愉しいファンタジー。

アンタッチャブル 不可触領域』は、嫌だ、嫌だ、と思いつつ、最後に一抹の光明はないものかと、作者の筆力でぐいぐい読まされてしまうノワール作品。

 落魄した元プロボクサーと、忘れ去られた往年の人気スターのマネージャー。この二人が出くわす先に、ドラム缶に入った死体の山が現われ、醜悪極まりない人間関係が露呈する。人間なんて案外こんなものかもしれないと思わせる作者の豪腕が恐ろしい。

その犬の歩むところ』は、内容を紹介しづらい作品だが、ギヴという犬とこの世の理不尽と戦った人々の愛と感動の物語。私は、本書を読んでいる間、不覚にも何度も涙した。

新潮社 週刊新潮
2017年8月17・24日夏季特大号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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