川本三郎「私が選んだベスト5」 年末年始お薦めガイド2017-18

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  • ニッポン放浪記 : ジョン・ネイスン回想録
  • 遅れ時計の詩人 : 編集工房ノア著者追悼記
  • 夜の木の下で

書籍情報:openBD

川本三郎「私が選んだベスト5」 年末年始お薦めガイド2017-18

[レビュアー] 川本三郎(評論家)

光の犬』は北海道の小さな町で暮す一家のほぼ昭和から平成にかけての物語。

 といってもよくある「家族の絆」が語られるわけではない。各章ごとに主人公が違う形をとっているため家族とはいっても結局はひとりひとりなのだという作者の思いが伝わる。登場人物それぞれ魅力がある。

あいまい生活』はその家族からも切離されてしまった現代のワーキング・プアの女性たちを描く。

 東京のシェアハウスに暮す女性たちだが、生活保護を受けているためコンビニでプリン一個を買うのもためらう女性の切り詰めた暮しには暗然とする。現代社会への作者の静かな怒りが強く伝わってくる。

ニッポン放浪記』は愉快な日米文化交流史。ネイスンは三島由紀夫や大江健三郎の翻訳者。そのまま大人しくしていれば立派な日本学者になれただろうに、好奇心旺盛で、大胆自由に道を踏み外してゆく。

 新派の舞台に立つ。落語家に弟子入りを試みる。勝新太郎のドキュメンタリー映画まで作るのだから面白い。そのアウトサイダーぶりは六〇年代のカウンターカルチャー世代ならでは。

 現在、出版社の大半は東京にある。そんななか関西唯一といっていい文芸書出版社を営む涸沢純平氏の『遅れ時計の詩人』は約四十年に及ぶ出版回想記。

 足立巻一、天野忠、山田稔ら関西在住の書き手の本を出し続けてきた。それなりの規模があると思いきや奥さんと二人なのに驚く。

 文芸書はベストセラーにならなくても確実に読者がいることに力づけられる。

 湯本香樹実(かずみ)は好きな作家のひとり。『夜の木の下で』は少年少女たちを主人公にした短篇集。彼らはいつも心地よい隠れ場所を探し出す。祖父の家で暮す孤独な少年と、物静かな大人の女性との交流を描く「マジック・フルート」は逸品。

新潮社 週刊新潮
2018年1月4日・11日新年特大号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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