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川本三郎「私が選んだベスト5」
[レビュアー] 川本三郎(評論家)
林望の食の随筆はどれを読んでも面白く、楽しい。
『大根の底ぢから!』もまた。その秘密は、著者が自分で料理をすること。
「料理は家庭料理を以て第一義とする」を信念に、日々台所に立つ。孫たちのために五時間もかけてクリスマスの七面鳥を焼く姿などまさにその真骨頂。
自分で料理をするからこそ食は天の恵みと分かる。
北村薫の父親(一九〇九年生まれ)は、折口信夫を敬愛、傾倒し、国文学、民俗学を学んだ。青年時代からの厖大な日記を残した。
その日記を読みこみ、父の青春を辿る。『小萩のかんざし』は、亡き父を語る三部作の最終作。
昭和八年から十三年にかけて、世は不景気で戦時色も強まる。父はうまく就職が出来ず、慶應義塾大学を卒業し、大学院に進む。
物情騒然としてゆくなか父は、本をよく読み、旅をし、歌舞伎や映画を見る。
戦前の昭和の「学ぶ青春」がよく描かれている。若き日、偉大な師、折口信夫に出会い、学んだ幸せが伝わってくる。
貴重な、昭和青春史になっている。もし父の日記がこのあともあるのなら、戦中、戦後篇も読みたい。
少女漫画の第一人者、萩尾望都の『私の少女マンガ講義』は、イタリアの大学での講義をまとめたもの。
イタリアで萩尾漫画が読まれていることにうれしく驚く。かの地で『ポーの一族』の作者が「絵を使った小説家」と評されているのも納得する。
つげ義春についてはこれまで多くのことが語られているが、矢崎秀行『つげ義春『ねじ式』のヒミツ』の、この孤高の漫画家が、アイヌ民族や沖縄の民俗学を踏まえて『ねじ式』を描いたという指摘は新鮮。
『桜の森の満開の下』は近藤ようこが坂口安吾の名作を漫画にしたもの。残酷な物語だが絵が清々しい。