大矢博子 ジャニ読みブックガイド
2018/01/10

草なぎ剛主演「黄泉がえり」18年前の原作小説が今、心を打つわけ

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ジャニ読みブックガイド第17回〈特別編〉

 あたらしいこの場所が好きになった皆さん、こんにちは。昨年、ジャニーズタレント出演作の原作小説を紹介するこのコラムが始まってまもなく、元SMAP3人の独立が発表されました。どうにかゴロちゃんの『犬神家の一族』だけは独立前に入れたものの、つよぽん&慎吾は間に合わなかった。それがずっと痛恨でした。
 でもさ。確かにもう今はジャニーズではないけどさ。彼らが与えてくれた(そして今も与え続けている)夢と喜びは不滅だもの。見続け、読み続け、語り続けていきたい。ということで皆さんから募集した「取り上げて欲しい作品」アンケートを元に、3回連続の年始特別企画ですよ。まず、つよぽん出演作で1位をとったのは、これだ!

■草なぎ剛・主演!「黄泉がえり」

 梶尾真治の小説『黄泉がえり』(新潮文庫)を原作とする映画「黄泉がえり」(東宝)が公開されたのは2003年。うわあ、15年も前なのか! 最初は3週間の公開予定が、感動が口コミで広がって実に3ヶ月のロングラン大ヒット。同時期に放送されたテレビドラマ「僕の生きる道」と合わせ、俳優・草なぎ剛を世に大きく印象付けた年だった。

 熊本で、死んだ人が帰ってくるという不思議な現象が相次いで起きた。死んだときの年齢のままの帰還に、戸惑いながらも喜ぶ家族。死亡届の取り消し依頼が殺到し混乱する行政。しかしよみがえった人々にはある共通点があった……というのが、原作・映画に共通の設定だ。だが、ストーリーは大きく異なる。

 映画を見た人は、ファンタジー設定のラブ・ストーリーとして記憶してるんじゃないかな。死んだ恋人のよみがえりを切望する橘葵(竹内結子)と、彼女への思いを押し隠してその恋人をよみがえらせるため奔走する川田平太(草なぎ剛)。他のよみがえりケースも描かれるけれど、物語の中心はあくまで平太と葵だ。だが原作の川田平太は人物造形も職業も異なるし、橘葵はそもそも原作に登場しない。ふたりの話は完全に映画オリジナルなのである。

 えー、あの映画が好きなのに、話が違うんじゃ小説は別に読まなくていいかな……と思ったあなた。待って。ちょっと待って。むしろ読んで。以前読んだよっていう人も、もう一回読んで。なぜなら、今読むと刊行当時にはこんなことになるとは予想できなかった新たな感動があるから。

イラスト・タテノカズヒロ

■熊本を舞台に書かれたことの奇跡

 映画の川田平太がクールな厚労省の役人だったのに対し、原作の平太は熊本弁ばりばりの豪放磊落な新聞記者。よみがえりの謎を調べる役どころだが、決して主人公ではない。そもそも本書には明確な主人公は存在せず、家族がよみがってきた人々の様子が並行して描かれるオムニバス小説なのだ。

 35歳で死んだ夫が還暦を過ぎた妻と歩く。小学生の兄が20歳を超えた弟をなだめる。プロポーズしようと思っていた女性の亡夫がよみがえる。会社の前社長が戻ってきて会長職に就く。いじめを苦に自殺した中学生がクラスに戻ってくる。死んだ人気歌手が新曲を出す……。そんなとき、行政や法律はどう対応するのか。家族や友人は何を思うのか。それをさまざまにシミュレートしつつ、よみがえった者との再会を通して人生が大きく変わる人々を描いたのが原作『黄泉がえり』なのである。

 何より映画との最も大きな違いは、黄泉がえりを起こした「彼」が存在すること。そして……これがちょっとすごいんだけど、原作では、「3月25日に益城町下を走る布田川活断層の熊本市寄りの地域で震度7の地震が起きる」と「予知」されるのだ。それと同時に「黄泉がえり者」たちが消滅するらしい、という噂が流れる。

 本書が書かれたのは1999年。熊本・大分地震より遥か以前である。だから刊行時に本書を読んだときは、ただ興味深い設定だとしか思わなかった。2016年4月に同じ活断層を原因とした地震が起きたのはもちろん偶然に過ぎないのだが、今読むと背筋が寒くなる。だが同時に、救われる、のである。意味がわからないでしょ? だからこそ今、読んで欲しい。

「黄泉がえり者」と「彼」が「その日」に臨むとき、ある現象が起きるくだりを読んで、涙が出た。こうだったら良かったのに、と。物語の結末にかかわるので詳しくは明かせないが、地震より17年も前に書かれたこの小説が、多くの被害を出したあの熊本・大分地震の記憶を浄化してくれたように思えたのだ。何だこれは。

■「その日」に向かう草なぎ剛の誠実な演技

 原作と映画ではストーリーも登場人物も異なるけれど、「その日、その時」に向かってすべてが怒涛のごとく流れ込むという構造は同じだ。そしてこの構造は、つよぽんの代表作とされる映像作品にも共通していることに気づかれたい。余命僅かな教師を演じた「僕の生きる道」、小松左京原作の「日本沈没」、SF作家・眉村卓夫妻の実話をもとにした「僕と妻の1778の物語」などがそれに当たる。どれも「その日、その時」に向かう物語だ。

 避けられない終わりが迫っており、それを本人が充分承知し覚悟している。その上で「その日」に向き合う草なぎ剛の演技を、どうか見比べていただきたい。できることをやりきって終わりを迎える「僕の生きる道」、ギリギリまで足掻き続け激情を迸らせる「黄泉がえり」、いろんな思いを飲み込んで静かに優しくその日に臨む「僕と妻の~」。役柄も芝居も異なるが、そこに浮かび上がるのは「誠実さ」だ。自分にできることを懸命に探し、それを誠実に、一途に努める。そんな役をやらせたら、つよぽんは本当に上手い。

 多くの監督や演出家、共演者から「天才」と言われ、業界内にもファンが多いつよぽんの演技。けれどそれは決して「才能」だけに頼ったものではないことを、ファンは知っている。それこそ、自分にできることを懸命に探し、それを誠実に、一途に努めてきた草なぎ剛という人を、私たちは四半世紀以上も見てきたのだから。

 1995年の阪神淡路大震災のとき(私も被災した)、SMAPが番組内で予定を変えて歌ってくれた「がんばりましょう」を今でも覚えている。励みだった。支えだった。その年の暮れに大阪城ホールのライブに行き、生で「がんばりましょう」を聞いたとき、亡くした友とあれからの1年を思い出して客席で泣いた。その前年のライブでの「がんばりましょう」とは、私の中ですでに別の意味を持つ歌になっていた。

 原作『黄泉がえり』もそうだ。熊本・大分地震を経た今、刊行時と同じ感想は持ち得ない。熊本市在住でご自身も被災された梶尾真治さんは、昨年から地元紙で続編『黄泉がえり again』の連載を始めた。あの地震を体験した熊本で起きる、新たな黄泉がえりの物語だ。人も、小説も、同じところにとどまってはいない。望むと望まざるとにかかわらず、変化はある。だが辛いことがあっても、人はそれを乗り越え、前を向いていける。笑っていける。君が微笑えば周囲の人だっていつの間にかしあわせになる。それこそが小説『黄泉がえり』のテーマなのである。

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2017/01/24
第17回アンケートの受付は終了いたしました。

 有栖川有栖『幽霊刑事』で上司に殺された若手刑事の「神崎」を演じて欲しい俳優には1位に草なぎ剛さん、2位に稲垣吾郎さん、3位に二宮和也さん(嵐)でした。
たくさんのご参加をありがとうございました!
第18回は、『ガリレオ』シリーズ初期の3冊で相棒を務める湯川の大学時代の同期である草薙俊平です。変わり者と評判の湯川の最大の理解者であり、時には一緒に酒を飲む、そんな草薙刑事を演じるなら……。あなたは誰に演じて欲しい? 福山雅治さんの相棒、として考えてみてね。
>> アンケート このヒーローにはどのジャニーズ?【18】

大矢博子
書評家。著書に「読み出したら止まらない!女子ミステリーマストリード100」など。小学生でフォーリーブスにハマったのを機に、ジャニーズを見つめ続けて40年。現在は嵐のニノ担。

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