風間俊介出演「いりびと~異邦人~」苦境に追い込まれる夫をかざぽんが好演 原作は読むと印象が変わるかも
何度でも新しくなれる皆さん、こんにちは。ジャニーズ出演ドラマ/映画の原作小説を紹介するこのコラム、2021年最後の更新はかざぽんのこのドラマだ!
■風間俊介・出演!「いりびと~異邦人~」(2021年・WOWOW)
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- 異邦人
- 価格:1,056円(税込)
原作は美術小説の第一人者・原田マハの『異邦人(いりびと)』(PHP文芸文庫)。実家が運営する有吉美術館の副館長を務める篁菜穂は、京都に滞在中のある日、白根樹という無名の新人の絵に惚れ込む。しかし、売り出したいという菜穂の情熱に対して、樹の態度ははっきりしない。どうやらその背後には師匠の照山がかかわる事情があるらしい。
一方その頃東京では、菜穂の夫である篁一輝の父が経営する画廊が詐欺に遭い、倒産の危機に陥っていた。窮地を脱するには、姻戚のつながりを利用して有吉美術館所蔵のモネの「睡蓮」を売却してもらう他ない。だがそれは菜穂が特に大切にしている絵だった。菜穂が許すはずがない。一輝は悩んだ末、菜穂の母で有吉美術館の館長である克子に連絡をとる。それは菜穂に対する二重の意味での裏切りだった……。
というのが原作・ドラマに共通する物語の導入部だ。物語はここから、若き画家・白根樹の事情とそれを巡るサスペンス、一輝と菜穂の危うい夫婦関係、美に囚われた者たちの姿、そしてそれらを通して、美術のためなら他のすべてを薙ぎ倒しても前に進む菜穂というひとりの女性の変化と進化を描いていく。
原作とドラマの設定上の最大の違いは、原作は東日本大震災からまだ1ヶ月しか経っていない2011年4月から物語が始まること。菜穂は妊娠中で、放射能の噂が飛び交う東京を避けて被災地から遠い京都に「疎開」しているという設定だ。ドラマでは、菜穂が妊娠中なのは変わらないが、都会の喧騒を避けて穏やかに暮らすため母が手配したという設定になっている。
原作ではこの「震災直後」というのがかなり重要で、放射能の恐怖に囚われヒステリックになっていく菜穂や、震災後の経済の冷え込みで打撃を受ける美術界の様子がつぶさに描かれる。その閉塞感が物語全体を覆い、登場人物の感情のぶつかり合いをより不安定に浮き立たせるのだ。これは震災小説、いわゆる「3.11小説」なのである。だが、このタイミングで再読して驚いた。震災後の閉塞感の描写が、コロナ禍の今に通じるのだ。
ドラマではそういった背景は取り払われているためサスペンス色がより前面に出ている。原作では中盤にようやく判明する樹の過去と照山との関係が、ドラマでは初回のプロローグとして描かれるのもサスペンスを高めるのに一役買っている。
■一輝視点で描かれた原作をかざぽんで味わう
さて、かざぽんだ。「VS魂」をはじめバラエティで存在感を強めているかざぽんだが、今年は「監察医 朝顔 新春SP」(フジテレビ)、「やっぱりおしい刑事」(NHK)、映画「鳩の撃退法」、そしてこの「いりびと~異邦人~」と、俳優業も絶好調。かつてはかざぽんが出てきたらだいたい誰か刺すという時代もあったのだが、最近は良き夫役からコメディまで、役の振り幅が広くなってきて見ていてとても楽しい。
とはいえ、やはり不穏な役が似合うのもまた事実。映画「鳩の撃退法」に続き、本作でもかざぽんの役どころは「秘密を抱えた夫」である。菜穂の夫・一輝だ。腹に一物持ってるような役、ほんと上手いよね。今回もベッドシーンがあるのだけれど、映画同様ラヴい雰囲気ゼロ&不穏さ100%で、思わず「もっと普通に恋させてあげて…」と思ってしまった。
ドラマの一輝は、妻を裏切りつつもできるだけ妻を傷つけたくなくて足掻いている。同時に、妻の絵を見る才能に嫉妬し、全力でそれを押し殺す場面もある。なかなかにアンビバレントで、特に菜穂が自分にはわからない審美眼を発揮するのをじっと見つめる不穏さなんて、さすがかざぽんの本領発揮なのだけれど、実は原作には、ドラマでは描かれない一輝の顔があるのだ。
原作は、一輝の視点の章と菜穂視点の章が一章ごとに入れ替わる構成になっている。つまり原作を読めば、この物語を一輝の目から再構築できるというわけ。そして一輝視点で描かれる原作の菜穂は、夫の仕事のことなどまったく忖度しない、気まぐれな妻なのだ。画廊が倒産の危機で、菜穂の実家の事業もうまくいっていない中、何も気にせず「気に入ったから」と高価な絵を購入する。こちらが仕事中でもかまわず電話してくる。情熱だけで先走って、手続きや実効性を顧みない。人生の中心は家族や夫ではなく常にアートにある。そんな妻。
一輝はそんな妻に振り回され、腹も立てるしイラつきもするが、不満を身重の彼女にぶつけることはない。彼女を大事に思っているのもまた事実で、彼女を裏切ったときには葛藤もあったし罪悪感にも苛まれる。ドラマの菜穂はここまでワガママなキャラではないので、彼女を蚊帳の外において絵を売っていく一輝や両親が冷酷に見えるが、原作ではむしろ一輝の方が可哀想になってくるのよ。我の強い妻と姑と実父の板挟みになって、それしかなかったとはいえ打った手が悪手で、どんどん身動きとれなくなっていくのだから。
この「他者の横暴に振り回される様子」と「板挟みになって身動きが取れなくなっていく様子」、そして彼なりにたいへんな努力をするんだけれど結局「報われない様子」が、なんだか妙にかざぽんに「似合う」のだ。原作の一輝視点の章をかざぽんで脳内再生しながら読むと、この可哀想な一輝をかざぽんで見たかったなあ、という箇所が随所にある。ぜひお試しを。
■かざぽんはジャニーズの「いりびと」か?
この原作のもうひとつの側面は、京都小説であるということ。ドラマでも再現されているが、京都の季節の行事や風景が随所に登場し、物語に彩りを加えている。そこに、京都という土地の持つイメージとしての閉鎖性(京都の皆さんごめんなさい)と、魑魅魍魎の跋扈する美術界(美術関係者の皆さんごめんなさい)を組み合わせることで、最初は京都を拒み、次に京都に憧れ、けれど拒まれ、それでも京都という町が少しずつ菜穂を変えていく様子を本書は描いている。
原作タイトルは「異邦人」と書いて「いりびと」と読ませる。大森望さんの巻末解説によれば、「入り人」とは京都以外の土地で生まれて、京都にやってきた人を指す言葉だそうだ。たとえ京都に何年住んでも余所者が京都人になることはできないという閉鎖的な言葉に受け取れるが、本書の菜穂はその京都の、さらに閉鎖的な美術界に分け入っていく。そうして自分の居場所を作り上げていくのだ。
原作を読みながら、アイドルであることが当然とされる事務所で俳優専任というのは、ある意味「いりびと」みたいなものなのかな、とちょっと思った。「VS嵐」の主題歌を歌うことが決まったとき、かざぽんが歌う・踊るということが周囲からイジられるくらいステージから離れていたわけで。自身もそれをネタにしてはいたけれど。
歌わない・踊らないジャニーズというのは、最初は異邦人のような存在だったかもしれない。けれど情熱と努力で、自分の場所を掴み、今がある。思えば、Jr.内ユニットの4TOPSの4人のうち3人がCDデビューはせず俳優の道を選んだわけで、ひとつの潮流を作った先駆者とも言えるのだ。そしてそのありようは、本書の菜穂に重なる。前例のないこと、習慣とは異なることに対して物おじせず、アートが好きという情熱だけで道を切り開く菜穂の姿に。
おやおや、かざぽんの一輝はピッタリだぞという趣旨で話していたはずが、いつの間にか菜穂とも重なるというおかしな事態になったぞ? 一輝と菜穂は対立する立場なのに。つまりこの物語は、菜穂の章と一輝の章の両方をかざぽんに重ねて読めるというお得な構成なのである。読まない手はないでしょ。
大矢博子
書評家。著書に「読み出したら止まらない!女子ミステリーマストリード100」など。小学生でフォーリーブスにハマったのを機に、ジャニーズを見つめ続けて40年。現在は嵐のニノ担。
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