北山宏光出演「卒業タイ厶リミット」小説ならではの仕掛けを見事に映像化 原作・ドラマどちらからでも!
見たかった空が広がって、重なった夢が動き出す皆さんこんにちは。ジャニーズ出演ドラマ/映画の原作小説を紹介するこのコラム、今回はみっくんが「花の妖精」と謳われたこのドラマだ!
■北山宏光(Kis-My-Ft2)・出演!「卒業タイムリミット」(2022年、NHK)
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- 卒業タイムリミット
- 価格:825円(税込)
「朝ドラ」のむこうを張って(?)この春から新設されたNHKの「夜ドラ」。月~木の夜、15分の帯ドラマだ。その第1弾となったのが辻堂ゆめ『卒業タイムリミット』(双葉文庫)を原作にした同タイトルのドラマである。
卒業式を3日後に控えた私立欅台高校で、人気英語教師の水口が何者かに誘拐された。それにタイミングを合わせたかのように、4人の生徒あてに「誘拐の謎を解け。真相は君たちにしかわからない」という手紙が届く。手紙を受け取ったのは体育会系男子の荻生田、学年一の美少女・小松、学年トップを争う秀才女子・高畑、そして教師の手を焼かせた元不良の黒川。
タイムリミットは72時間。4人は、犯人は学校関係者ではないかと推理し、密かに探索を始める。水口の周囲を調べたり、信頼できる教師から情報をもらったり、水口と確執のあった教師を洗い出したり。しかし、探索を進めながらも疑問は拭えない。「君たちにしかわからない」と言われても彼らには心当たりがないのだ。なぜこの4人が選ばれたのか。自分たちが何を知っているというのか──。
というのが原作・ドラマに共通する設定だ。ドラマでは4人にだけ水口の監禁動画が送られ、学校側は事件を隠蔽しようとするのに対し、原作ではまず監禁動画がネットにアップされ校内が大騒ぎになる。それと並行して警察の捜査も始まる──という違いがある。
違いは他にも多々あって、ドラマに登場する警察がらみの場面やコミカルなパートはどれも原作には存在しないし、不良の寺木も増田明美も出てこない。伊藤先生の家を家探ししたりもしない。水口の監禁場所が判明した後の展開はドラマの完全オリジナルだ。原作ではその場所ですべての謎解きが始まる。何より、みっくん演じる小菅理事長のキャラが原作とドラマでぜんぜん違うんだけど! まあ、それは後述するのでしばしお待ちを。
ただ、いろいろ違いはあれど、最も大事な「なぜ4人が選ばれたのか」「黒幕は誰で、その動機は何か」という部分は原作と同じなので、原作ファンも安心してドラマをご覧いただきたい。──え、原作ファンが気にしてたのはそこじゃないって? だよねー。実は原作読者にとって最大の興味は、「この仕掛け、どうやって映像にするの?」だったから。
イラスト・タテノカズヒロ
■小説でしかできないトラップを見事にアレンジ
辻堂ゆめの原作はとてもサスペンスフルな青春ミステリなのだけれど、実は、あるトラップが仕掛けられている。このトラップ、小説だからできる仕掛けなのだ。これをドラマで? どうやって?
そしてそのトラップにつながる場面が放送されたとき、「あー、そう来ますか!」と、思わず身を乗り出してしまった。はっはあ! 原作を読んだ人にはわかってもらえるよね? 「あの人」の「あの場面」だけ見せ方を変えているじゃないか!(←ぎりぎりの表現) 小説でしか成立しないトラップを映像でどう処理するのか、原作は読んだがまだドラマを見てない人という人はぜひ確認してほしい。
逆にドラマだけ見て原作は未読という人は、すでにネタはわかっている状態で原作を読むと、初手から著者が仕掛けてきているのがわかってニヤニヤしちゃうよ。しかもメインの真相以外はドラマと原作で違いが多いので、そのトラップがわかっていても原作は新鮮に楽しめるはずだ。原作にはコメディ要素はなく、真正面から青春の葛藤に向き合えるぞ。
本書と同じように小説ならではの仕掛けがあるため映像化不可能と言われた小説を、チャレンジングな方法で映画やドラマに仕立てているケースは他にもある。ジャニーズ出演作なら、佐藤正午原作・風間俊介出演の「鳩の撃退法」(2021年、松竹)や、東野圭吾原作・玉森裕太主演「パラレルワールド・ラブストーリー」(2019年、松竹)がそうだ。そうそう、貴志祐介原作・大野智主演「鍵のかかった部屋」(2012年、フジテレビ)や麻耶雄嵩原作・相葉雅紀主演「貴族探偵」(2017年、フジテレビ)にも、それに該当する回があった。
映像化が難しいならそこだけカットしてもいいものを、「ではその部分を、映像でしかできない仕掛けでご覧にいれましょう」という作り手の工夫が見られるのは実に刺戟的。こういった作品は、ぜひ映像と原作を比べてみてほしい。そうそう、ジャニーズといえば、映像化はされていないが加藤シゲアキ『閃光スクランブル』(角川文庫)にも似た趣向があるよね。え?と思って最初から読み返すと、実に細やかに伏線が張られていたことがわかる。これを映像化するならどうなるかな?と思いながら再読するのも一興だ。
■花の妖精・みっくん! でも……
さて、みっくんである。欅台高校の理事長にして、校内の花壇で花を育てるガーデナー。水は足りているかい?と優しく花に問いかける。彼の登場シーンは心なしか紗がかかったような、メルヘンチックでふんわりした雰囲気だ。そんな彼は「花の妖精」と呼ばれ、彼の姿を見た生徒は幸せになれるなんて伝説が生まれたほどだ。なんてキュートでファンタジックな役なの!
──と思ったでしょう? ところが原作の小菅理事長はまったく違うのだ。生徒に厳しくて恐れられている存在なのである。完璧主義者で、勉強ができる生徒には部活や行事を、部活や行事をがんばっている生徒には勉強を強制する。やたらと生徒に干渉したがり、風紀の乱れを嫌って校則を増やす(ドラマでは校則のない高校ということになっていたが、正反対だ)。問題のある生徒には異常なほど執着する。土足で生徒のプライベートに踏み込む──と、これは黒川視点の小菅評だが。
つまり、ドラマで峯村リエさん演じる校長先生、あのキャラクターが原作の小菅理事長と思えばいい。原作の校長はもっと普通の小物だ。つまりドラマでは、原作の理事長のキャラを校長に割り振り、まったく別の造形の理事長を作り出したわけだ。
原作の理事長はもともとやり手のビジネスマンで、「目は笑っていない」「空恐ろしい笑顔」で学校に君臨し、生徒に煙たがられる。4人が音楽室を監視しているとき、ドラマでは荻生田が花の世話をする理事長に見つかったが、原作ではそんな場面はない。なぜなら「理事長はこんな雑草だらけのところ通らない」からだ。ね、正反対でしょ?
なのでここはぜひ、原作の理事長をみっくんで脳内再生しなら読んでみていただきたい。花を愛でるフェアリィみっくんもいいけど、厳しくて、何を考えてるかわからない鉄面皮で、どこか不気味で、空恐ろしい。そんな理事長をみっくんで想像してみて? それはそれでなかなかいいぞ。
もちろん、脳内再生のヒントはドラマにもあった。ラス前、第23回がみっくんの見せ場だ。たった15分で、あんなにいろんなみっくんの表情が見れるドラマ、他にある? もうみっくん七変化だオンステージだ(ああ、ネタバレできないのが辛い)。花の妖精からの振り幅、そして、原作の小菅の不気味さがあんな形で再現されるとはね! 原作のクライマックス場面、ぜひともみっくんのあの表情を想像しながらお読みいただきたい。面白さ倍増だぞ。
大矢博子
書評家。著書に「読み出したら止まらない!女子ミステリーマストリード100」など。小学生でフォーリーブスにハマったのを機に、ジャニーズを見つめ続けて40年。現在は嵐のニノ担。
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