“武闘派以前”の岡田准一が甦る! ホラー映画「来る」の解題は原作で
言えないことばかりが増えるけどしゃーない皆さん、こんにちは。ジャニーズ出演ドラマ/映画の原作小説を紹介するこのコラム、たとえ大好きなジャニーズが出ていようと断固として避け続けていたチョー苦手なホラー映画が、ついに来てしまいました。仕事だ仕事だと唱えながら、戦々恐々としつつ見た自分史上34年ぶりのホラー映画とは……
■岡田准一(V6)・主演!「来る」
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- ぼぎわんが、来る
- 価格:748円(税込)
そりゃ確かに小説原作だからここで扱うのは当然なんだが、いやマジで私ホラー苦手なんですよと編集さんに愚痴っていたら、イラスト担当のタテノカズヒロさんが「ホラー大好きヒャッホー! 仕事じゃなくても見に行くつもりだったヒャッハー!」とノリノリで、だったら今回はタテノさん原稿も書きませんかと思ったんだけど、やっぱりダメでした。そりゃそうか。
でもホラー映画は苦手でもホラー小説なら大丈夫。なぜなら脳内映像化スイッチをオフにする、もしくは脳内映像にジブリのフィルタをかける(幽霊や怪異をトトロで想像するなど)という方法をとっているから。著者にとっては不本意だろうし、ホラーファンからすれば邪道だろうが、怖いのホント苦手なのごめんなさい。で、「来る」(2018、東宝)の原作小説、澤村伊智『ぼぎわんが、来る』(角川ホラー文庫)も刊行当時、私はこの手で乗り切ろうとした。
物語序盤の主人公は田原一家だ。田原秀樹は恋人の香奈と結婚、ほどなく第一子・知紗を授かった。ところがそれと前後して、秀樹の周囲で正体不明の怪異現象が起き始める。実は秀樹にはひとつだけ心当たりがあった。それは秀樹の育った土地につたわる「ぼぎわん」という名前の妖怪だ。そしてそれは、少しずつ田原家に忍び寄ってきた……。
というのが原作・映画の両方に共通する最初の設定である。原作小説を読んだとき、私はまず、脳内でぼぎわんをトトロに置き換えた。すると確かに、映像的な恐怖は薄れる。むしろ可愛い。だが、それだけではダメだった。小説『ぼぎわんが、来る』で本当に怖いのは、妖怪だの怪異だのの部分ではなく、もっと身近でリアルな人間の営みの方だったから。
■「来る」映画と原作、ここが違う。
原作は3部構成をとっている。第1部は田原秀樹、第2部は香奈の話。そして第3部では岡田くん演じるオカルトライター野崎を中心に、霊能者姉妹らがぼぎわんに立ち向かう。原作では第2部になってから判明する第1部の本当の意味が映画では早々にほのめかされるという部分はあったものの、基本的には第2部の途中まで、映画は実に原作に忠実だった。第2部の後半から、登場人物の生死や行動が原作と映画で変わってくる。
そして大きく違うのは第3部だ。野崎と霊能者姉妹がぼぎわんと戦うのは同じだが、映画はとんでもないスケールでその戦いを演出した。ななな、なんだこの神仏大集合的バトルは! だがあの〈集合〉するくだりは原作にはない。完全な映画オリジナルだ。さらに物語の結末も異なる。映画は断ち切れるように終わったが、原作ではさまざまな出来事にきちんと決着がつく。つまり終盤から結末においては、映画と小説はまったく別物と考えていい。
映像だからこそ可能な高度なエンタメと迫力満点の映画も楽しいが、「結局あれはどういうことだったの? どうなったの?」という疑問が残った人は、ぜひとも原作を読んでほしい。映画が勢いでドッカンドッカンと観客を翻弄するところを、原作ではひとつひとつ、これが原因だった、だからこうする、こういう推測が成り立つ、だからこうすると順を追って紡がれる。そういうことか、と腑に落ちる。
どちらが怖いかは好みの問題だけれど、私は(ホラー映画が大の苦手にもかかわらず)原作小説の方が怖かった。ぼぎわんを呼んでしまった原因──人間の愚かさ、醜さがより印象的に提示されるのが原作の方だからだ。視点が変われば見えるものが変わる。それは映画でも演出されていたけれど、どうしても他の部分まで映像に入れざるをえない映画に対し、一視点の主観だけで語ることが可能な小説は、視点が変わった途端に見えなかったものがいきなり見えてくるサプライズが大きい。
■殴り飛ばされる岡田くんに感じたノスタルジー
さて、岡田くんである。彼が演じるフリーライターの野崎は、怪異現象を恐れる田原が相談を持ち込む相手として登場する。原作では始まって2割くらいのところで出てくるが、映画では登場まで46分! 長かった! まだ出ないのかとヤキモキしたよ。岡田くんが主演てことになってるけど、主演俳優が映画開始から46分出てこないとか斬新すぎるだろ。
斬新なのはそこだけじゃない。岡田くんが弱い! 正直言って、ぼぎわんがどんなに強烈な化け物であっても、岡田くんなら素手で倒せそうじゃないか。2007年のドラマ「SP 警視庁警備部警護課第四係」(フジ)以降、岡田くんは無敵の剣豪だったり近未来の軍人だったり武将だったりと、意志も格闘能力も強い男を演じてきた。それが似合っていた。ところが野崎はやさぐれた態度に投げやりな言動。心にも闇を抱えている。よれよれの革ジャンから覗く胸板はご存知のように分厚いけれど、化け物はおろか女性にぶん殴られて吹っ飛ぶんだぞ!
でも、以前はこうだったよなあとちょっと懐かしくなったのだ。「Vの炎」(フジ、1995年)での嘘つきで根気のない少年。「木更津キャッツアイ」(TBS、2002年)での余命半年の青年、「タイガー&ドラゴン」(TBS、2005年)の素直になれない天才落語家。今回の野崎は〈武闘派以前〉の岡田准一を久しぶりに見せてくれた気がした。ピシっとしてない、だらけて座る岡田くんは、めちゃくちゃセクシーだ。あの頃を思い出すヘタレな役と、あの頃にはなかった大人の男の色気。うん、いいぞいいぞ。
まあそれでも、岡田くんが本気を出せばぼぎわんを仕留めるくらい簡単でしょ? と思わずにいられないあなた。クライマックスから結末にかけては映画と原作はぜんぜん違うので、ぜひ原作でその後の野崎を確かめてほしい。原作の野崎には映画のような闇はないし、しっかり格闘もやるぞ。さらにその後には、とても穏やかで優しい野崎にも出会える。ぜひクライマックスからラストまでを、岡田くんでジャニ読みしていただきたい。
【ジャニーズはみだしコラム】
「来る」は岡田くんにとって初めてのホラー映画主演だったが、実はジャニーズはホラー映画への出演はあまり多くない。昨年、タッキーと有岡くん(Hey!Say!JUMP)が「こどもつかい」(松竹)に出演し、驚いたくらいだ。
そういえばタッキーのドラマデビューは「木曜の怪談」(1995-1997年、フジ)内の「怪奇倶楽部」だったっけ。「怪奇倶楽部」にはタッキーに加えて翼もいたし、川野直輝くんもいた。同枠の単発ドラマでは、稲垣吾郎、KinKi光一、佐藤アツヒロ、草なぎ剛なんてあたりが主演してた。懐かしいなあ。もう一回見たいなあ。
ホラーではないが、幽霊役や、幽霊と共演する役ならある。たとえばニノが幽霊役を演じて日本アカデミー賞最優秀主演男優賞を獲得した映画「母と暮せば」(2015年、松竹)がそうだ。また、霊感体質で幽霊が見えてしまう、という役には、映画「ホーンテッド・キャンパス」(2016年、松竹)の中山優馬が、ドラマ「幽かな彼女」(2013年、関西テレビ)の香取慎吾がいる。こういう幽霊モノならホラーが苦手でも大丈夫なので大歓迎だ!
大矢博子
書評家。著書に「読み出したら止まらない!女子ミステリーマストリード100」など。小学生でフォーリーブスにハマったのを機に、ジャニーズを見つめ続けて40年。現在は嵐のニノ担。
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