大矢博子の推し活読書クラブ
2021/10/13

亀梨和也主演「正義の天秤」亀ちゃんに振り回されるキスマイ北山宏光の成長にニヤニヤ

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 修羅場に切り込む皆さんと、後退りはできない皆さん、こんにちは。ジャニーズ出演ドラマ/映画の原作小説を紹介するこのコラム、今回は亀ちゃんとみっくんが上司と部下になったこのリーガル・ドラマだ!

■亀梨和也(KAT-TUN)・主演、北山宏光(Kis-My-Ft2)・出演!「正義の天秤」(2021年・NHK)

 亀ちゃんフォトジェニックが過ぎる……!

 すみません、ついつい興奮してしまった。気を取り直して、まずはドラマの内容から。師団坂法律事務所で刑事事件を担当するルーム1は、リーダー佐伯真樹夫の急逝で求心力を失い、退職者が続出。今では4人の弁護士しか残っていない。そこに佐伯の遺言として送り込まれてきたのが、元外科医という異色の経歴を持つ鷹野和也弁護士だった。鷹野はその卓越した推理力と独特なアプローチで、被告人の真実を暴いていく。しかし彼が前職を捨てて弁護士の道を選んだのには、ある悲しい理由があった──。

 原作は大門剛明の『正義の天秤』『アイギスの楯』(ともに角川文庫)の2冊。実は原作では少々始まり方が違っていて、ルーム1に乗り込んできた鷹野が所属弁護士を片っ端からリストラし、4人しか残らなかったという設定なのだ。このエピソードにより、鷹野和也という人物の苛烈さとミステリアスな一面が初っ端から強調された。

 原作は基本的に1話で1件の裁判案件を扱う1話完結方式。だがそれと同時に、鷹野の恋人だった弁護士・雨宮久美子をかつて襲った災厄が綴られ、その背景には雨宮が取り組んでいた冤罪事件があったことがほのめかされる。そして第2巻『アイギスの楯』では、1話完結の形を守りながらも、その冤罪事件の調査が全体を貫く幹になっている。

 ドラマも基本的には同じ構成だ。放送第1話のボート転覆事件は第1巻『正義の天秤』所収の「カルネアデスの方舟」、第2話の裁判員殺害事件は同じく「悪魔の代弁者」、第3話の求刑の軽重の問題は「正義の迷宮」、そして予告を見る限り今週放送予定の第4話は「アメミットの牙」をそれぞれ下敷きにしている。

 いずれも扱われる事件の内容や、鷹野たちが探す手がかり、真相への伏線などは原作通りだ。ミステリ部分はまったく脚色されていないわけで、意外な真相のサプライズは原作通りに堪能できる。いやこれホント、原作は「そうだったのか!」「そっちだったのか!」という謎解きの醍醐味に満ちているので、そこが改変されていないのは実に嬉しかった。


イラスト・タテノカズヒロ

■大胆な人物設定の改変、鷹野カッコ良すぎ問題


『正義の天秤 アイギスの盾』
大門剛明[著](KADOKAWA)

 ミステリ部分が改変されていない一方、人物設定に大きな違いがいくつかある。ひとつは鷹野の恋人、雨宮の〈今の状態〉だ。これが決定的に、物語の行く末を左右するほど違うので、おそらく終盤は原作と違う形になるのではないか。また、ドラマで竹中直人さん演じる西園寺は原作には登場しない。西園寺が陰で何やらやってそうなのも、おそらくドラマオリジナルな展開が用意されているのだろう。

 ルーム1のメンバーで注目すべき改変は、桐生が女性になっていること。原作の桐生は桐生雪彦という男性でかなりのイケメン設定。なんと『アイギスの楯』で、「ジャニーズから来たような見た目」と表現されているのよこれが! いったい誰がキャスティングされるのかと思ってたら、女性に変えて大政絢さんというクール美女だったのには膝を打った。なんせ師団坂法律事務所ルーム1には、リアルに「ジャニーズから来た」弁護士がふたりいますから!

 ということで、その「ジャニーズから来た」弁護士ふたりを見ていこう。まずは鷹野和也を演じる亀梨和也。偶然の和也つながり! 原作ではとにかく厳しくて謎めいた面が強調されているが、ドラマはぐっとキャラを立ててきた。野球好きで、やたらと物事を野球に喩える癖がある。ルームのメンバーとキャッチボールでコミュニケーションをとる。いずれも原作にはない設定で(原作では「大学病院時代は野球部だった」という一言があるだけ)、亀ちゃんの得意技を取り入れてくれたっぽい。

 そして何より、立居振る舞いのすべてがカッコ良すぎませんかこれ。椅子に座って足を組む、野球のボールを投げる、立ち止まって振り返る、そんな動作のひとつひとつに「キメ」が入る感じがたまらない。あの見た目でスイーツ食べながら「ついてきてほしかったんだろ?」(第2話)なんて言われた日にはもう、部屋中を行ったり来たり跳びまくる鷹野のスーパーボールなみに翻弄される視聴者よ。さらに決め台詞まで! 難事件に出会うと「ワクワクしてきたぞ」とニヤリと笑う。悟空なの? 鷹野はキラキラしたイケメン悟空なの? 公判は天下一武道会なの? 佐伯真樹夫は亀仙人なの?(どんどん話がズレてきた)

 てなところも実はすべて原作にはまったく存在しない、ドラマオリジナルのキャラ設定なのだ。原作と共通してるのは「非合理的だ」という口癖くらい。いやはや、まったく面白くしてくれたものだなあ。原作の鷹野は何考えてるかさっぱりわからない、でもやり手なのは間違いない、という描かれ方なので、文章の向こうに亀ちゃんの鷹野を想像しながら原作を読むと楽しいぞ。

■キスマイ北山担こそ、原作を精読すべし!

 そのキラキラした悟空先輩、もとい、鷹野弁護士の背中を見ながら頑張ってるのが、元ニートで引きこもりという過去を持つ若き弁護士、北山宏光くん演じる杉村徹平だ。亀ちゃん先輩のドSキャラに振り回されながらも、その明るい性格でルーム1のムードメーカーという役どころ。無駄にキラキラしてる亀ちゃん鷹野との対比か、絶妙なもっさり感を出してきているところがなんともキュートじゃないか。髪切りたい……。

 第1話で見せたように、かつて引きこもりだったからこそ虐げられた者の感情を汲み取ろうとする真面目な面もあるが、弁護士としてはまだまだ半人前だ。ドラマ第3話では大きな減刑を勝ち取るという成果を挙げたのに「裏取引したんじゃないか」と疑われ、それを庇う仲間の言い方も「杉村さんにそんな度量も力量もない」という、どっちに転んでも杉村が傷つくシステム。

 けっこうヒドい言われようだが、実は原作の杉村はドラマよりさらに「できない」奴として登場する。特に原作の序盤なんて、調子が良くて力を持っているものに擦り寄るタイプとして描かれ、「長いものには巻かれろ」が信条と自分で言ってしまったりする。鷹野が判断した杉村の弁護士偏差値は事務所中ひとりだけ群を抜いての最下位。イケメンエリート弁護士の桐生と自分を比べて劣等感を持ち(桐生をジャニーズに喩えたのが杉村。メタが過ぎる)、ヘコんで屋上で空を眺めては、事務員から自殺を心配されたりもする。かなり情けない。つまりドラマの杉村は、原作に比べるとかなり上方修正されているのだ。

 こんな杉村が2冊の原作を通して少しずつ成長していくのが読みどころ。特に原作とドラマの大きな違いとして、原作は1話ごとにルームのメンバーひとりひとりが持ち回りで主役を演じるという構成になっている。杉村が主役なのは『正義の天秤』では「カルネアデスの方舟」、『アイギスの楯』では表題作。ドラマには登場しない杉村の本音やプライベートがたっぷり描かれるので、ぜひともみっくんを重ねて読んでいただきたい。

 特に「アイギスの楯」では鷹野の力を借りずに、杉村ひとりで込み入った事件を解決する。「カルネアデスの方舟」の時のフラフラした感じから、とてつもなく成長しているのがわかるのだ。杉村のトラウマやジレンマ、そしてそれを飲み込んで大きく成長する様子が味わえるんだから、こりゃもう原作読むしかないでしょ。先輩に憧れ、いつか自分もそこまで行くんだと努力する後輩。このふたりをキャスティングしてくれたNHKに感謝!

大矢博子
書評家。著書に「読み出したら止まらない!女子ミステリーマストリード100」など。小学生でフォーリーブスにハマったのを機に、ジャニーズを見つめ続けて40年。現在は嵐のニノ担。

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