稲垣吾郎の「非日常感」がぴたりとハマった NHKドラマ版「陰陽師」
きみが喜んでくれるのがいちばん嬉しい皆さん、こんにちは。年始特別企画も最終回。最後はもちろんこの人、ゴロちゃんこと稲垣吾郎回ですよお待たせしました。なお、この特別編の趣旨については前々回のつよぽん回の冒頭を読んでくださいね。
この企画では事前に皆さんから取り上げて欲しい原作付き映像化作品を募集したわけですが、3人ぜんぶ合わせた中でもぶっちぎりで1位だったのが、これだ!
■稲垣吾郎・主演!「陰陽師」
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- 陰陽師
- 価格:792円(税込)
ゴロちゃんが安倍晴明を演じた「陰陽師」は、2001年にNHKの「ドラマDモード」という若い視聴者向けの枠で放送された一話完結の連続ドラマだ。原作は夢枕獏の『陰陽師』シリーズ(文春文庫)。今も続いている短編中心の長寿シリーズで、初期の3巻から7作がドラマ化された(第5、9、10話はオリジナル)。
舞台は平安時代。陰陽師の安倍晴明が呪(しゅ)や式神を操り、都に跋扈する鬼や怨霊を鎮める──という物語で、レギュラーは、晴明のもとに相談事を持ち込む友人の源博雅、晴明の側に仕える式神の蜜虫(原作では藤の木、ドラマでは蝶々の精)、晴明のライバルである蘆屋道満など。ドラマもこの設定を踏襲している。毎回ゲストが登場し、彼/彼女らの「鬼」の問題を晴明が解決していくという作り。
ドラマ第1話「玄象」(原作は第1巻『陰陽師』所収「玄象といふ琵琶鬼のために盗らるること」)を見たとき、70年代のNHK少年ドラマシリーズを彷彿とさせるような作りにワクワクしたものだ。「なんぼ鬼でもそのメイクは」とツッコみ、子役や若手のスリリングな演技力に親のような気持ちでハラハラし、その一方で、大御所の舞台俳優が登場する回ではその芝居に圧倒された。そうこうするうちに、あの世界がだんだんクセになっていった。
実はこの「クセになる」というのが『陰陽師』で最も重要なポイントなのだ。原作では、夢枕獏は意識的に「マンネリ」を演出している。原作ではいつも冒頭で、博雅と晴明が晴明邸の簀子の上で庭を眺めながら酒を飲みつつじゃれ合う場面が描かれる。そして博雅の相談事を受けて出かけるときに必ず入るのが、このフレーズだ。
「ゆこう」
「ゆこう」
そういうことになった。
■NHK版「陰陽師」が最も原作に近い理由
『陰陽師』は様式美の小説だ。まず晴明邸の庭で四季を味わい、博雅と晴明のいちゃいちゃで読者を和ませ、「ゆこう」「ゆこう」そういうことになった、という定番の流れで鬼退治に出かける。帰ってきて簀子でまた語らう。この十年一日のごときお決まりの様式が非日常感を生み出す。お馴染みの非日常感──これこそが『陰陽師』の世界なのである。
ドラマではこのセリフこそなかったものの、毎回ちゃんと晴明邸の簀子での会話場面を作っていた。酒も飲んでいた。晴明は毎回博雅をからかっていた。ドラマでは蜜虫も側にいて、あの簀子トリオの場面がパターン化されたということ自体、制作陣の原作リスペクトの証明と言っていい。「ゆこう」「ゆこう」がない代わりに、原作で度々交わされる「おまえはよい漢(おとこ)だな」がドラマ第4話「鉄輪」に登場し、思わずガッツポーズしたよ。
ドラマのファンにぜひ読んでほしいのが「玄象といふ琵琶鬼のために盗らるること」、そして「鉄輪」(『付喪神ノ巻』所収)「鬼小町」(『飛天ノ巻』所収)の3作だ。「玄象と〜」にはこの物語の基礎知識となる情報がすべて入っているので、ドラマを味わう上でも参考になるはず。「鉄輪」は原作からの改変が最も少ない。だが唯一改変された部分に注目。原作ではヒロインが文字通り「途中まで鬼になる」のである。凄まじいぞ。
そして「鬼小町」は、ドラマでも原作でも私がいちばん好きな話である。年老いた小野小町の怨霊に、彼女に恋い焦がれたまま死んだ深草少将が取り憑いている。ドラマでは三田和代さんと風間杜夫さんという大御所の掛け合いが圧巻だったが、原作では小野小町の姿のまま小町と深草少将の人格がくるくる入れ替わりながら狂ったように心情を吐露するのだ。そこに桜の花吹雪が舞い、壮絶だわ耽美だわでもう。
ドラマでは最後にふたりは救われるが、原作では狂気に駆られたふたりを晴明が何もできずに見つめたまま物語は終わる。晴明が相手を救えなかった、数少ない一編だ。お薦めなのでぜひお読みいただきたい。なお、ドラマの花びら殺人は原作にはなく、代わりに和歌を使った暗号解読があるのと、「ゆこう」「ゆこう」ではなく「飲もう」「飲もう」になってるのも注目ポイント。
■非日常感をまとう安倍晴明は、稲垣吾郎のはまり役
実際には安倍晴明は陰陽寮で働く国家公務員だし妻も子もいた。だがそういったリアルをとことん排し、非日常の世界で様式美を追求したのが『陰陽師』の安倍晴明だ。狐の子だったなんて言い伝えもあるくらい、現実離れしたキャラである。そこに、ゴロちゃんの生活感のなさや透明感がぴったりハマった。驚いた。
ふとしたときの視線や細やかな指先の演技など、具体的に魅力をあげることは易しい。だがこのドラマで見せたゴロちゃんの力は、そういう小手先のことではない。たとえば、リアルにはあり得ないような役でもゴロちゃんだとなぜか成立したり、普通の人なら照れるようなキザなセリフや場面でもゴロちゃんだとなぜか品よくこなせたりという例を、私たちは度々見てきたよね? それはゴロちゃんがもともと虚構性・非日常性をまとい、様式を我が物にする能力に秀でた俳優だからだと思う。それが「陰陽師」の非日常感と様式美に合致したのだ。
ゴロちゃんはこれまで悪役からコミカルな役まで、いろんな面を見せてくれた。クールに見えてお茶目だったり、物静かに見えておしゃべりだったりという顔も今ではすっかりお馴染みだ。だけど、ずっと見てきたファンが考える「これぞ稲垣吾郎」はやはり、非日常感と虚構性を内包した、スタイリッシュで美しい稲垣吾郎なのではないだろうか。「陰陽師」がアンケートで2位以下を大きく離しての1位だった理由は、たぶんそこにある。安倍晴明の稲垣吾郎は、まさに、私たちが見たかった稲垣吾郎なのだ。
叶うなら、40歳を超えた今のゴロちゃんでもう一度、安倍晴明が見たいなあ。今の方が、さらに似合うと思うんだけど。……っていうかそもそも17年前のドラマなのに、ゴロちゃん全然変わってなくてひっくり返ったわ。何なの? むしろあなたが妖魔なの? だったら憑いてくれてもいいのよ?
ところで杉本哲太さんが演じた源博雅は、無骨で一本気でロマンチストという原作通りのキャラだったけど、この役を単発ドラマの市川染五郎版「陰陽師」で演じたのがKinKi Kidsの堂本光一である。え、イメージ違わね? いやいやそれが……ということで次回は、光一が出演した方の「陰陽師」を取り上げるよ!
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2017/02/21
第19回アンケートの受付は終了いたしました。
クールな秀才・道真と、イケメンモテモテ中年・業平のバディもの、灰原薬『応天の門』の若き菅原道真を演じて欲しい俳優には1位に稲垣吾郎さん、2位に中島健人(Sexy Zone)さん、3位に佐藤勝利(Sexy Zone)さんでした。
たくさんのご参加をありがとうございました!
第20回は、前回同様に平安ミステリコミックの灰原薬『応天の門』。菅原道真のバディである左近衛権少将のイケメンモテモテ中年・在原業平を演じるなら…。あなたは誰に演じて欲しい? 前回募集した菅原道真とセットで考えてみてね。
>> アンケート このヒーローにはどのジャニーズ?【20】
大矢博子
書評家。著書に「読み出したら止まらない!女子ミステリーマストリード100」など。小学生でフォーリーブスにハマったのを機に、ジャニーズを見つめ続けて40年。現在は嵐のニノ担。
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