大矢博子の推し活読書クラブ
2021/04/21

宮近海斗出演「インフルエンス」ちゃかの役だけ原作と違う? 「いい改変」に感謝!

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 イヤな事忘れてAllnight Dancingな皆さんこんにちは。ジャニーズ出演ドラマ/映画の原作小説を紹介するこのコラム、今回はちゃかちゃんが昭和の不良を演じたこのドラマだ!

■宮近海斗(Travis Japan/ジャニーズJr.)・出演!「インフルエンス」(2021年、WOWOW)

 原作は近藤史恵の同名小説『インフルエンス』(文春文庫)。小説家の「わたし」のところに、話を聞いて欲しい、できればそれを小説に書いて欲しいという人物が来る。それは同じ団地に育った3人の女性の、30年にわたる因縁の物語だった。

 主人公の戸塚友梨。幼なじみだが、中学からは不良の仲間に入って友梨と距離のできた日野里子。入れ替わるように友梨と仲良くなった坂崎真帆。ところが中学2年の冬、暴漢に襲われそうになった真帆を助けようとした友梨は、勢い余って男を刺してしまう。思わずその場から逃げ出した翌日、警察に逮捕されたのは友梨ではなく無関係なはずの里子だった。そしてその1年後、再び友梨と里子、そして真帆を巻き込んだ事件が起きて──。

 というのが原作の導入部だ。中学を卒業し、高校で離れ離れになった3人。詳細を書くことはできないが、複数の殺人事件に彼女たちは関係し、けれどそれを隠したまま成長する──というところまでは明かしてもいいかな。だが、過去の後悔を抱いたまま別の道を歩くかに思われた3人の運命は、10年以上の歳月を経て三度(みたび)交差する。

 殺人を巡る女ともだち3人の息詰まるサスペンス、事件の背後に隠された意外な真相、そして「当事者が作家に自分の話をする」という入れ子構造にも仕掛けがあり、読みながら何度も驚かされる。物語がどこへ向かうのか、もう気になって気になってぐいぐい読んでしまうぞ。

 ではドラマはどうだったか。舞台を大阪から静岡に移したこと、原作では中学時代の話だったのが高校に変わっていたこと、3つめの事件の起きた年代など、細かい改変はあった。また、映像では表現しにくい原作の仕掛けを、他の手法に変えた部分も見られた。だがストーリーの流れは基本的に原作通りである。特にラストシーンは、これ以上ないくらい原作通りで感動してしまった。これまでこの連載では何度も「原作通り」という言葉を使ったけれど、このラストは原作通りオブ原作通り。どこがどう原作通りだったかぜひ小説とドラマのラストシーンを見比べていただきたい。


イラスト・タテノカズヒロ

■原作とドラマ、ここが違う──特にちゃかの役!

 登場人物の設定を見てみると、実は原作から最も大きく変えられていたのが、ちゃかちゃんが演じた緒方歩だった。友梨たちより1学年上(原作では同級生)で、里子の彼氏。友梨の同級生に重傷を負わせ(原作では殺してしまう)少年院に入り、出所後も里子との付き合いが続くという役だ。まず名前が違う。原作では細尾歩という名前なので、これから原作を読むちゃか担さんは要注意。

 ドラマで最初にちゃかちゃんが登場するのは高校時代、校内で暴力を振るっている場面だ。時代背景が昭和の終わり頃だったので、短ラン姿での登場だった。いやあ、不良の役、似合うな! これ、昭和からのジャニオタさんにしか通じない喩えで恐縮だけど、「CROSS TO YOU」のときの男闘呼組の4人を混ぜたらこんな仕上がりになりそうだなと。そういやまさにドラマの舞台は男闘呼組がデビューした時代ではないか。

 とまあ、懐かしいねえ、かっこいいねえと思いながら呑気に見ていられたのは第3話まで。第4話で、原作を先に読んでいる身としては「今日の放送でちゃかちゃんは……」と予想していたら、えええっ、ちょ、ま、違うじゃん、ちゃかちゃんのとこ、原作の展開と違うじゃん! と前のめりになったよね。ここを変えちゃったら話はどうなるの? というくらい大きな改変があったのだ。

 終盤の展開だし、原作でもかなりのサプライズが仕込まれた部分なので、どこがどう改変されていたかはここには書けないんだけれども、ジャニオタ的には「いい改変」だったなー。だって、この改変のおかげで、原作にはない緒方の場面がいろいろ追加されたんだもの。

 原作の細尾歩はホントどうしようもないヤツだが、ドラマの緒方歩には不器用な優しさや寂しさ、アットホームな場面などが加えられていた。メインの女性5人に比べれば出番は少ないけれど、その中で荒れた不良高校生からほのぼのした場面まで、時の流れの中での変化がちゃんと感じ取れた。ありがとう改変。ただし原作の細尾にはドラマとはまったく違う設定と展開が待っているので、ドキドキしながらお読みいただきたい。

■関係を変える影響(インフルエンス)とは

 原作の話に戻る。サスペンスやミステリもさることながら、この原作小説で特に印象に残るのは「女性同士の関係」の描き方だ。ここに描かれる3人の関係は、ステレオタイプの「ドロドロした女の対立」でも「ベタベタした女の友情」でもない。束縛したことも拒絶したこともある。理解できたこともできなかったこともある。負い目もあるけど情もある。ドロドロもベタベタもあるけど、それ以外のものもたくさんあってパワーバランスがめまぐるしく変わる関係。リアルすぎて震える。

 作中の「わたし」は女性同士の関係を小説に書くことが多い作家という設定だったが、著者の近藤史恵も同じ。女3人の関係を描くという近藤史恵のこの路線は2020年刊行の『夜の向こうの蛹たち』(祥伝社)に受け継がれているので、『インフルエンス』が気に入った人はぜひ手を伸ばしていただきたい。

 ドラマには細かい改変はいろいろあったけども、「女性同士の関係」の描写は見事に原作の意を汲んだものだった。原作よりは幾分、前向きなところや友情が強調されてはいたものの、いろいろなものが入り混じった感情はとてもよく出ていて、よくぞ「わかりやすい友情物語」にしないでくれたと拍手したくなったほどだ。この物語は、離れていてもお互いの存在が影響し合うという関係こそがキモなんだから。

 トラジャもまた、関係性のグループであり、影響を与え合い、受け合うグループだ。トラヴィス・ペインとの出会い、PLAY ZONE、マッチ先輩のバックについたこと、それがきっかけで嵐やタキツバのバックについたこと。ひとつのことが影響して別の展開を呼ぶ。9人の時代から人数は何度か変わったけれど、今はいないメンバーもその影響は確実に残っているし、新たに入ったメンバーからの影響もある。インフルエンスの集大成が、今のトラジャなのだ。

 原作の彼女たち3人は、決していいときばかりではなかったけれど、それでも、あのときこの2人に会わなければ今の自分はなかった、と言えるほどの影響を与え合った。その途中で選んだ行動は正しいものばかりではなかったにせよ、それを受け止めた上で、自分の人生を自分でつかもうとしている。

 どうか原作のラストシーンをもう一度読んでいただきたい。ラストの一節の「三人」を「七人」(旧メンバーを入れた「十一人」でもいい)に変えて読むと、そこには彼らの清々しい未来が浮かび上がって、とても幸せな気持ちになるはずだから。

大矢博子
書評家。著書に「読み出したら止まらない!女子ミステリーマストリード100」など。小学生でフォーリーブスにハマったのを機に、ジャニーズを見つめ続けて40年。現在は嵐のニノ担。

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