錦戸亮出演「西郷どん」従道役で思い出す亮ちゃんのあの〈選択〉
根性決めた日、男らしくダチと別れて旅立つ皆さん、こんにちは。ジャニーズ出演ドラマ/映画の原作小説を紹介するこのコラム、どのタイミングで錦戸亮 in「西郷どん」を取り上げるか、迷いの1年でした。だってどこが最大の見せ場なのか判断できなかったんだもの。でもそんなこと言ってたらもう最終回が迫ってきちゃったよ!
■錦戸亮・出演!「西郷どん」
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現在NHKで放送中の大河ドラマ「西郷どん」、原作は林真理子の『西郷どん!』(KADOKAWA)だ。明治維新の立役者、西郷隆盛の一代記で、亮ちゃんは隆盛の弟・西郷信吾(のちの西郷従道)として出演している。12月2日放送回、大久保利通に詰め寄る従道の、涙を溜めたあの表情といったら!
このコラムで「西郷どん」を取り上げるのは2度目。前回は4月、風間俊介演じる橋本左内を通して原作との違いを紹介した。原作がオーソドックスな歴史小説であるのに対して、ドラマはかなり脚色が入っているという話をして、ドラマが「史実と違う」ことが気になったら原作小説を手に取ることをお勧めする──と書いた。それは物語が終盤になった現在も変わらない。
明治新政府樹立から西南戦争のくだりはドラマも原作も駆け足だが、それでも原作には、明治政府で何が起きてどんな問題があったか、その中で西郷がどう動いたか、順序立てて簡潔に綴られている。細かな政策や他藩出身者の感情にも目配りが利いていて、ドラマではカットされたエピソードにも触れられ、とてもわかりやすい。ドラマの補完としては最適にして充分だ。
だが、亮ちゃん演じる西郷従道に関しては……こればかりは、原作がドラマを補完できるとは残念ながら言えないのだ。だって原作には従道がほとんど出てこないんだもの! ドラマで西郷従道が最初に登場したのは、第1回。明治31年、西郷隆盛の銅像の除幕式の場面だが、この場面は原作にはない。原作のオープニングは京都市長になった西郷菊次郎が父の思い出を語る場面だ。だから原作を先に読んでいた人は、ナレーションの西田敏行さんが菊次郎なのだろうと、なんとなく最初から予想していたはず。
イラスト・タテノカズヒロ
■西郷吉之助の「良心」として描かれた信吾
亮ちゃんがあらためてドラマに登場したのは、第22回。やんちゃで生意気で血気盛んな弟だった。兄の威光で置屋で騒ぎ、兄に踏み込まれたら慌てて芸者の背中に隠れるという、いかにも「弟!」という可愛らしさ。けれど第23回、精忠組のひとりとして寺田屋騒動に巻き込まれ、斬り合いの恐ろしさを目の当たりにする。さらに第27回の禁門の変で焼かれた京を見る。これらの体験が信吾を変える。
だがこのくだりは原作にはない。原作は西郷中心なので、寺田屋については手紙で知ったことになっている。囚われた中に弟の信吾の名前がある、という一文だけで信吾は出てこない。信吾が原作に登場するのは、沖永良部に流された兄が赦免され、迎えに行く場面が最初だ。兄に説教するひとかどの武士として描かれている。
亮ちゃん演じる信吾を視聴者に強く印象付けたのは、戊辰戦争を描いた第35回と36回だった。命の大切さと戦の愚かさを教えてくれた兄が、まるで何かに取り憑かれたかのように策略を巡らせて幕府を攻撃する。人死にが出てもやめない。あの頃の兄さぁはどこへ行ったんだという思いを込めた、悩ましげな顔。そして、これだけ人が死んでるんだ、もうやめようと兄に詰め寄ったその時に、銃弾が信吾を襲った。
戊辰戦争で信吾が大ケガを負ったのは実話だ。だがこれも原作にはない。このように原作にない場面で信吾をフィーチャーした理由は何だろう。倒幕に向けて進んで行く兄の「良心」を信吾に担当させたからではないかと私は考える。主人公の急な闇落ちに視聴者は戸惑う。その視聴者を代弁する存在は原作にはない。だから原作に出てこない信吾をそこにはめたのではないか。
沖永良部以降で信吾が原作に登場するのは、なんと明治2年、欧州視察から薩摩に帰って来た場面だ。ドラマでは第39回。軍服にヒゲ、名前を従道と改めての登場である。やっと原作とドラマが一致したぞ! すっかりヨーロッパにかぶれて新妻をハグしたくだりは原作にはないが、妻を伴って東京に行ったのは事実。「薩摩の男で妻を同行させたのは従道が初めてであった」と原作にある。
■薩摩か新政府か、従道の選択で思い出したこと
その後、原作に従道が登場するのは、朝鮮に行くという兄を止めようと大久保利通に懇願する場面と、留学から帰国した甥の菊次郎を預かる場面だ。この2場面は逆にドラマにはなかった。そして隆盛が下野したとき、多くの薩摩出身の士族が隆盛に続いたが、従道は東京にとどまった。原作には、兄はきっと東京に戻ってくると信じているから、兄のために家と土地を買う、という従道の手紙が紹介されている。今の東京都目黒区にある西郷山公園のことだ。それが、原作で従道が描かれる最後である。
ドラマではこれから西南戦争が始まる。ドラマでどこまで描かれるかわからないが、従道は裏切り者として西郷家と袂を分かつことになる。だが、薩摩の敗戦が避けられなくなり、投降した菊次郎と下男の熊吉を迎えたのは従道だ。従道は甥の無事を心から喜んだという。原作は菊次郎視点なんだから、そこを書いて欲しかったなあ! だからこそドラマではそこに従道の大きな見せ場があると予想しているのだが、どうかな?
それにしても──薩摩と新政府、その両方に所属していた者たちは西郷の下野で、どちらを選ぶか選択を迫られた。従道は新政府を選び、薩摩からは離れた。だが、自分は新政府で為すべきことを為すと決心しつつ薩摩を心配する従道が出るたびに、思い出すのだ。亮ちゃんが、NEWSをやめて関ジャニ∞に専念したときのことを。
関ジャニ∞の活動が忙しくなるにつれてNEWSとの兼任は物理的に難しくなった。だから関ジャニ∞に専念するというのは自然な流れではあったけれど、おりしもNEWSは脱退者が相次ぎ、亮ちゃんと同時期には山Pも脱退を決めていた。9人から4人になってしまうNEWSの存続が危ぶまれた。薩摩出身者がどんどん辞めていく新政府に敢えて残り、故郷に背を向けた従道は、まるであのときの亮ちゃんの「もうひとつの選択」を見ている気がしたのだ。
西郷家と一時は断絶した従道だが、その後も西郷家のことを気にかけ続け、隆盛の妻や子の面倒を見続けた。自身は明治政府の重職を歴任し、海軍大将、そして元帥まで昇りつめる。従道のその後に興味がある人は、ご子孫である西郷従宏氏が書かれた『元帥・西郷従道伝』(芙蓉書房出版)などの評伝を当たっていただきたい。っていうか、亮ちゃんで従道の大河ドラマ、やってほしいなあ。
【ジャニーズはみだしコラム】
錦戸亮、という名前をジャニーズファン以外の全国区に押し上げたのは、NHKの朝ドラ「てるてる家族」(2003年)だった。タキシードに羽をつけて屋根から降りるというジャニーズのコンサートさながらのプロポーズ場面のインパクトたるや!
朝ドラに初めて出演したジャニーズは、1989年の「青春家族」の稲垣吾郎。まだSMAPでCDデビューする前のことである。15歳のゴロちゃん、可愛かったなあ! 声変わりの直前だったんだよなあ。
その後、1993年の「かりん」にKinKi剛、1994年「春よ、来い」に国分太一、1997年の「あぐり」に生田斗真、2000年の「私の青空」に赤坂晃などなどジャニーズが出演する朝ドラが増えて来た。2012年の「純と愛」のかざぽんは準主役だったし、2015~16年「あさが来た」の桐山照史くんもほぼ全編に登場する大きな役だった。
そんな中、ふたつの朝ドラに出たジャニーズがふたりいるって知ってる? ひとりは元・男闘呼組の高橋和也。1998年の「やんちゃくれ」と2006年の「純情きらり」に出演した。もうひとりは関西Jr.の西畑大吾。2014年の「ごちそうさん」と「あさが来た」。「あさが来た」はジャニーズがふたり出演した初めての朝ドラでもあるのだ。
大矢博子
書評家。著書に「読み出したら止まらない!女子ミステリーマストリード100」など。小学生でフォーリーブスにハマったのを機に、ジャニーズを見つめ続けて40年。現在は嵐のニノ担。
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