大矢博子の推し活読書クラブ
2023/05/24

重岡大毅主演「それってパクリじゃないですか?」しげちゃんのドSキャラにびっくり! 構成を大きく変えたドラマ版は原作未読・既読どちらでもワクワクに

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 明日もきっと笑ってキミと過ごせる皆さんこんにちは。ジャニーズ出演ドラマ/映画の原作小説を紹介するこのコラム、今回はしげちゃんがデキる(デキ過ぎる)弁理士を演じる、このドラマだ!

■重岡大毅(ジャニーズWEST)・主演!「それってパクリじゃないですか?」(日本テレビ・2023)

 原作は奥乃桜子『それってパクリじゃないですか? ~新米知的財産部員のお仕事~』(集英社オレンジ文庫)。現在2巻まで刊行されているが、ドラマのベースになっているのは今のところ主に1巻のエピソードだ。

 主人公は飲料メーカーに勤務する藤崎亜季。開発部から、自社の特許や商標を管理する知的財産部へ異動になった。知財についてはド素人の亜季は、親会社からの出向で知財部にやってきた上司の北脇雅美にさんざんしごかれることに。少しずつ成長する亜季だったが、知財関係のトラブルは思いの外多くて……。

 というのが原作・ドラマ両方に共通する設定だ。ただ、設定は同じでもドラマの構成は原作から大きく変えてきた。原作のエピソードの順番を入れ替えたり、人物造形を変えたり(特に開発部のメンバーは原作とはまったく違うし、ライバル会社の社員も原作ではここまでフィーチャーされない)、オリジナルのエピソードを足したりしているので、ストーリーとしてはかなりの部分で別物になっている。

 たとえば、ドラマ第1回で亜季が情報漏洩の濡れ衣を着せられる一件は、その顛末も含めて完全にドラマオリジナル。原作には存在しない。第2回のパロディの一件と、登録商標侵害の一件は、それぞれ原作第1巻の【0001】と【0003】から。第3回のスムージー開発はドラマオリジナルだが、作中に登場する侵害予防調査のエピソードは1巻【0002】に登場する。ドラマ第4回から第6回までは基本的にドラマオリジナル。だが所々に、たとえばネットから拾った写真でポスターを作るとか、特許出願の補強材料として官能評価を行うとか、原作にも出てくる話がちりばめられている。

 ──と書くと、原作あんまり残ってないな?と思われるかもしれない。が、原作を既に読んでいる私は、ここからの展開にワクワクしている。なぜなら原作第1巻の最大の事件の萌芽が第6回でほのめかされたのだ。そしてもしここから原作通りの事件が起きるとしたらあの人がかかわってるわけで、でもこのドラマの人物設定だとその展開はかなりエグいことになるわけで、原作通りにするのか変えてくるのか、今から固唾をのんでいる次第。原作読んだ人ならわかるよね?


イラスト・タテノカズヒロ

■ジャニオタなら特にわかる、知財あれこれ

 ストーリーや人物を大きく変えているにもかかわらず、原作無視という印象を受けないのは、「トラブルを解決するため、毎回必ずひとつは知財関連の情報が紹介される」という構成が原作に沿っているからだ。これが原作ドラマともに、実に勉強になる!

 商標登録とは何か、パロディとパクリの違いは何か、新商品を世に出すために権利関係でどんな準備が必要になるか、発明や権利を巡ってどのような駆け引きがあるか──そういった情報が、具体的な事例とともに語られる。そこに人間模様を組み合わせることで、こういった知財がいかに私たちの暮らしに深くかかわっているかがわかるようになっているのだ。原作にはドラマでは(今のところ)扱われていない細かい事例や具体的な作業がたくさん出てくるぞ。

 知財といえば、ジャニーズのファンなら肖像権を思い浮かべるかもしれない。最近は少し緩和されたけど、少し前まで、ネットでの雑誌の書影にジャニーズが使われてるときはそこだけグレーに切り抜かれてたりしたよね。試写会の記事なんかでも、ジャニーズが写ってない写真が使われるのが当たり前だった。でももちろん、知財は肖像権だけじゃない。

 ドラマで紹介された特許庁の関連サイト(特許や商標などの出願状況が検索できる)で、試しに「ジャニーズ事務所」と入れてみると面白いよ。早変わり舞台衣装の特許をとっていることがわかるし、商標のページにはOB含めジャニーズ所属のグループ名がずらりと並ぶ。他の人が勝手に同じ名前を使えないようになっているのだ。退所したフォーリーブスや男闘呼組の再結成は、ちゃんと事務所に話を通してその名前を使っていることがわかる。

 え、待って、「嵐」なんて普通名詞じゃん? そんな普通の言葉も商標登録できるの? ここで登場するのがドラマ第4回に出てきた「区分」だ。「嵐」は芸能活動を意味する第41類としての登録になっている。芸能ジャンルにおいては「嵐」という名前はジャニーズ事務所に権利があるという意味。他に、キーホルダーだのうちわだのグッズとして使われる可能性がある品物の区分にも商標登録が認められているが、こちらは「嵐」ではなく「アラシ」。他のグループ名は複数の区分を同時に登録しているのに、なんでだろ? 「嵐」という普通名詞だとそこまでの登録はできなかったのかな(私の想像です。弁理士さんの解説がほしい)、などと経緯を推理してみるのも楽しい。

 グループによって区分が少し違っていたりするのも興味深いが、そんな中、商標登録できていないグループがひとつだけある。「嵐」以上によく使われる普通名詞で、しかも芸能関係でも使わないわけにはいかない名詞──わかるね? そう、「NEWS」だ。

■ドSから少しずつ萌えを見せ始めた重岡北脇に注目!

 話をドラマと小説に戻そう。しげちゃん演じる北脇は初手からかなりのドSキャラとして登場した。これに驚いた。

 原作は集英社オレンジ文庫から出ているお仕事系キャラ文芸だけど、同じレーベルのお仕事小説を原作としたドラマにも、かつてしげちゃんは出演していた。青木祐子原作の「これは経費で落ちません!」(2019年、NHK)だ。

 それを取り上げた回でも書いたが、このドラマでしげちゃんが演じた営業部員・山田太陽は、キャストが発表されたとき「ぴったりだ!」と思わず声に出したくらい、イメージがそのままだった。明るくてまっすぐで、好きな女の子のところに満開の笑顔でわんこのように駆けてくる。ポジティブで、常に周囲を明るくする。いやもうこの役、しげちゃん当て書きでは?と思ったくらい似合っていたのである。

 ところが今回は正反対! 周囲とはまったく馴れ合わず、敵を作ることも厭わず、他者をこき下ろし、我が道を行く。ぜんぜんイメージ違う……と思ったのだが、いざ始まってみると、ちょっとこれ、悪くないぞ? っていうか、めっちゃいいぞ? 新境地だぞ?

 ただ、原作ではまだ可愛げのある描かれ方をしていて、その可愛さがわかるシーンも多々ある。なので今回のジャニ読みではそこを紹介して「原作で可愛い北脇をしげちゃんで脳内再生してね」と書くつもりだった。しかし第5回を見て、途中まで書いた原稿を全破棄したのだ。だって、だんだん可愛げ出てきたよね? ドSの中にちょくちょく萌えがちらつくようになってきたよね?

 なるほど、これはヒロインのお仕事成長物語であるのはもちろんだが、北脇もまた変化をしていくのだ。北脇が猫好きなのは原作では早い段階で明かされるが、ドラマでは第5回まで引っ張った。だとすれば、ここからドラマの北脇が原作に寄っていく可能性もあるわけで。特に、前述したように原作第1巻に登場する大きな事件が今後ドラマでも起きそうなので、ドラマの北脇に可愛げが出てきたタイミングであれがくると思うと……わあ、原作よりキツいかも。

 原作とドラマが違う、ということは、どちらが先でも楽しめるということでもある。後でも先でもいいので、原作もぜひお読みいただきたい。もしかしたら事件の内容や真相が原作とは違うかもしれないし、もし同じだとしたら、このドラマの人物設定で原作のあれをやるのはエグいと書いたのがわかるはずだから。

大矢博子
書評家。著書に「読み出したら止まらない!女子ミステリーマストリード100」など。小学生でフォーリーブスにハマったのを機に、ジャニーズを見つめ続けて40年。現在は嵐のニノ担。

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