少年忍者出演「文豪少年!」ジャニーズJr.だからこそできた名作アレンジに脱帽!
太陽が照らしてる方にどんなことがあってもGoingな皆さんこんにちは。ジャニーズ出演ドラマ/映画の原作小説を紹介するこのコラム、今回はバラエティに富んだ趣向で3ヶ月にわたって視聴者を楽しませてくれたこのオムニバスドラマを一気に振り返るぞ!
■少年忍者・出演!「文豪少年!~ジャニーズJr.で名作を読み解いた」(2021年、WOWOW)
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- 江戸川乱歩傑作選
- 価格:693円(税込)
ドラマの舞台はある不思議なブックカフェ。その店に入った客には、もう読む本が決められているという。それは客の悩みやためらいを受け止め、未来を開くかもしれない本。けれど原作通りではなく、その客の心が反映された物語になるのだと──。
という設定で文豪の名作を現代風にアレンジし、そのドラマの主演を少年忍者の面々が務めるという企画だった。第1回の「蜘蛛の糸」と第2回の「走れメロス」は以前紹介済みなので、今回はそれ以降を見ていくわけだが……いやあ、面白かった! 注目されるのはやはり、明治から昭和初期に書かれた小説をどう現代風に脚色するのかという点だったのだが、一話ごとに工夫があって、原作と見比べながら感心したりニヤリとしたり。
中でも「これ、どうするんだろう」と思っていたのが谷崎潤一郎の「秘密」を下敷きにした第6回「稲荷坂の秘密」だ。なんせ原作では女装趣味に目覚めた主人公が盛り場で過去に関係していた女と再会し、今度はその女に導かれて目隠しをされたまま女の家に通うことになる──という谷崎潤一郎の〈女に振り回されるの大好きな倒錯おじさん〉キャラが炸裂した話なんだもの。
したらばさ! 初手からきっちり女装してくれたよ深田竜生くん! そして原作通りに進むかと思いきや、あのエンディングには度肝を抜かれた。原作では主人公の心情がほのめかされるだけだったのに、ドラマではその続きを見せたのだ。ラストの深田くんの表情は抜群だったぜ……。いい役者になりそうだなあ。
もうひとつ、これは今の社会では設定が難しくない?と思ったのが江戸川乱歩「屋根裏の散歩者」を原作にした第4回「罪と罰の散歩者」だ。原作は下宿屋の屋根裏を歩き回って節穴から下を覗いていた主人公が、たまたま節穴の真下に寝ていた住人の口にモルヒネを垂らして殺すというもの。だがその犯行は名探偵・明智小五郎に見破られることになる。
でも今日日の集合住宅に屋根裏はないでしょ? いわんや節穴をや。どうするんだろうと思ってたら、なんと団地のベランダの避難ハッチを使うというアイディア! わあ、その手があったか。感心したのはそこだけではない。川崎皇輝くん演じる主人公が出会う謎の人物がてっきり明智小五郎かと思っていたのだがそうではなかったこと。そして本編は「屋根裏の散歩者」だけでなくドストエフスキー『罪と罰』、そしてコーネル・ウールリッチの短編でヒッチコックの映画で有名な「裏窓」へのオマージュ作品でもあった。なんて贅沢な。
■先輩ジャニーズとの共演が光る2作
全10作の中に、先輩ジャニーズが共演していた作品が2作あった。森鴎外「高瀬舟」原作の第8話「少年と舟」には少年鑑別所の職員として佐藤アツヒロが、小泉八雲「雪女」が下敷きの第9話「雪おんなの風」には山でひとりキャンプをしている男に長谷川純が、それぞれ扮している。
「少年と舟」は病気で自殺を図った弟から死なせてと頼まれ、ナイフを抜いたところを確保された少年が、鑑別所で憑物が落ちたように穏やかな風情を見せる物語。原作も弟の自殺を助けたとして島送りになる若者と、彼を送る高瀬舟の船頭の会話で構成されている。安楽死の是非を扱った物語で、原作では船頭が、ドラマでは鑑別所の女性職員が、それぞれ法とは何か、こんな事態になる前に救う手立てはなかったのかと考える。実にうまく現代に置き換えたと感心した。
実はこの話、安楽死の他にもうひとつ「知足」というテーマも孕んでいる。原作の主人公は食べるものにも事欠く生活から、皮肉にも罪人となることで三度の食事が食べられるようになった。ドラマでも主演の北川拓実くんが、鑑別所の食事に「こんな美味しいものを生まれて初めて食べた」と涙を流す。人は何をもって「充分」と思えるのか。何を求めて「もっと」と欲張るのか。推しが元気で生きていることが最大のファンサ、という言葉を思い出した。
昭和のジャニオタとしては光GENJI・アツヒロの久々のドラマ出演は見逃せないと正座待機してたんだけども、わはは、アツヒロってば妻帯者であるにもかかわらず女性職員と不倫の関係になり、しかも妊娠したと聞かされてビビるというサイテーの役だったのには笑った。そして徳永えりさん演じる女性職員がその上司を見て「知足」を体現するという絶妙な使われ方であったことよ。
一方、「雪おんなの風」は元木湧くん・平塚翔馬くん、青木滉平くんが山中でハセジュン演じる猟奇殺人鬼に会うというサスペンス仕立て。元木くんは先輩に殺されかかるという稀有な体験をしたわけだ。何より驚いたのは、ハセジュンの悪い役って珍しい! しかも似合ってた! ジャニーズのサイコパス演者はニノとかざぽんがツートップだったけど、そこにハセジュン入れていいんじゃね?
■少年忍者だからこそ可能なアレンジ
さて、さまざまな趣向を凝らしたこのオムニバスだが、最も「これドラマ化ムリでは?」と首を傾げていたのが、夏目漱石「二百十日」を下敷きにした第5話「二百十日の二百十段」だ。てか、よくこれをドラマにしようと思ったな。原作を読んでみていただきたいのだが、これはふたりの主人公、圭さんと碌さんがぐだぐだ会話しながら阿蘇山を目指すというだけの話なのだ。事件も波乱もない。ドラマになるか? ……なってたから驚いた。
原作の阿蘇山は学校の校舎に置き換えられた。安嶋秀生くんと檜山光成くん演じる主人公2人組は〈階段部〉という謎の部活を立ち上げ、ぐだぐだと益体もない会話をしながら屋上を目指して階段を昇る。わはは、同じだ。そういう全体の流れのみならず、檜山くん演じる圭が世の中は不公平だらけだと文句を言うのも、卵や豆腐屋の話といった細かい話題も、全て原作に類する会話がある。いきなり剣道で竹刀を落として小手を取られたという原作まんまの話を始めたときにはお茶噴いたわ。
本編に限ったことではないのだけれど、ドラマだけ見て原作は知らないという人がいたらぜひ原作を読んでほしい。このオムニバスドラマは単体で楽しむより、原作と比べることで面白さが何十倍も増す。原作では台風で登山を断念するがドラマでは屋上の不良たちに阻まれる。そして今日はダメだったけどいつかきっと阿蘇に登ろう(屋上に出よう)というエンディングはそのまま、今の不公平にいつかきっと打ち勝とうという決意表明でもあるのだ。原作の「二百十日」ってあまり注目してこなかったけど、意外と面白い話だったのかも……と思わず原作の方を再評価してしまった。
そしてこれこそが少年忍者をキャスティングした効果だ。「今日はできなかったけど、いつかできるようになろう」という若者ならではの決意表明。デビュー前の彼らに、これほどふさわしい決意があるだろうか。うん、君たちはきっといつか必ず屋上に出られる日が来るよ、屋上からの景色を眺める日がくるよ、と伝えたくなる。
そう思ってみれば、宮沢賢治「注文の多い料理店」を下敷きにした第3話「注文が多い店には気をつけろ」での今の人気に驕ってはいけないという戒めも、泉鏡花「外科室」が原作の第7話「外科室のある洋館」での一瞬の出会いが運命を変える様子も、夢野久作「空を飛ぶパラソル」をアレンジした第10話「冬の青い日傘」での承認欲求への警鐘も──前のコラムに書いた、第1話「クモの糸」でのエゴや第2話「メロスを待つ男」の嫉妬と同じように、ジャニーズJr.というグループの業(ごう)と、彼らが向き合う世界を描いたものに他ならない。
100年という時を超えて読み継がれる物語から、いつの世にも当てはまる青春のテーマを汲み取り、これから大きく羽ばたく少年忍者が演じる。なんて壮大な企画だろう。マスター役のイッセー尾形さんは事あるごとに「君たちは若いから」と言っていた。若いから、失敗してもやりなおせる。若いから、これから何にだってなれる。それは少年忍者の未来へのエールのように思えたのである。
大矢博子
書評家。著書に「読み出したら止まらない!女子ミステリーマストリード100」など。小学生でフォーリーブスにハマったのを機に、ジャニーズを見つめ続けて40年。現在は嵐のニノ担。
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