大矢博子の推し活読書クラブ
2018/09/12

木村拓哉・二宮和也主演「検察側の罪人」 原作では先輩・後輩の“絆”に注目!

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク

“ツイてない”と思ったら一度じっくり鏡を覗く皆さんと、やな事あってもどっかでカッコつける皆さん、こんにちは。ついにスクリーンで夢の共演が果たされましたよ、ああ長生きはするもんだ。ってことで、今回はもちろんこれ!

■木村拓哉・二宮和也(嵐)主演!「検察側の罪人」

 平成ジャニーズを牽引するふたりが主役共演ということで注目度が高い「検察側の罪人」(東宝)。東京地検のベテラン検事・最上毅を木村くんが、その最上の教えを受けた若き検事・沖野啓一郎をニノが演じる。原作は雫井脩介の同名小説『検察側の罪人』(文春文庫)。こんな話だ。

 検事の最上毅は、老夫婦殺害事件の捜査対象者の中に松倉重生の名を見つけ、愕然とする。松倉は最上のよく知る少女が殺された事件の重要参考人だったが、結局起訴されることなく時効を迎えてしまったのだ。最上は、松倉が犯人なら今度こそ法の裁きを受けさせると決意、事情聴取を若き検事・沖野啓一郎にやらせた。沖野は最上の期待に応えるべく松倉を調べるが、次第に捜査の方向に疑問を持ち始めて……。

 と、このあたりまでは原作と映画はほぼ同じだ。原作に登場するエピソードや会話もそのまま再現され、これはこのまま原作通りに行くのかなと思っていた。そしたらまあ、途中からどんどん違う方向に進んだから驚いた。しかも結末まで違う! ぜんぜん違う!

 原作との違いは後述するとして、逆に原作通りだったのがキャストのイメージ。中には事務官の橘や裏社会の諏訪部など、原作と大きく設定を変えられている人物もいるが、にもかかわらず原作イメージとピッタリなのだ。原作と映画、どっちが先でも「イメージと違う」という違和感がない。映画を先に見た人は、ぜひ役者さんを当て読みしてみてほしい。

 何より、容疑者の松倉は原作でもめちゃくちゃ気色悪かったけど、彼を演じた酒向芳さんがもう、怖いよ気持ち悪いよすごいよ! 彼とニノとの手に汗握る迫力たっぷりの取り調べはこの映画の名場面のひとつだけど、ニノ担のあたしが松倉ばっか見ちゃったもん。ごめんよニノ。あれが朝ドラの「半分、青い。」で流暢なネイティブ岐阜弁を披露してくれた農協のおじさんと同一人物だとは。役者さんてすごいね。


イラスト・タテノカズヒロ

■「検察側の罪人」映画と原作、ここが違う。

 ──と言っても、ネタばらしはできないのでざっくりした説明になるけれど。まず人物では、沖野付きの検察事務官・橘沙穂の設定が大きく変えられている。映画では彼女にとある背景が付け加えられ、真実探求の一助を担うのだが、それは原作にはない。というか原作では橘はあまり前面に出てこないのだ。ニノ担が悲鳴をあげた「これ足どうなってんの?」ってなラブシーンも、原作ではもっとさらっと書かれているのでそこは安心してお読みいただけるかと。

 物語の通奏低音にインパール作戦(太平洋戦争時の日本軍の作戦名)を置いているのも映画オリジナル。さらに映画では随所に現代社会への皮肉や危機感がまぶされ、映画そのものが観客にメッセージを投げかけるような構成になっている。が、これらも原作にはまったく登場しない。沖野が真相に迫る過程も違うし、事件がその後どうなったのかも違うし、えーっと、うん、つまり後半は原作とほぼ別物と考えていい。

 だが、ある意味、ストーリーよりも大きな違いはスピード感だ。映画は短いスパンで場面を転換し、迫力あるスピーディな作品になっていたが、原作はもっとじっくり読ませる形。最上が一線を越えるまでにどんな葛藤があったのかがとても丁寧に描かれるし、それに対する責任と覚悟もしっかり綴られる。一方、沖野についても、最初は張り切っていたのに徐々に戸惑い、疑い、そして決意し、対決を選び、けれどずっと迷いを抱いているという複雑な感情の変化を丹念に描いている。

 時間の制約もあってか映画の最上は迷いなく一線を越えたように見えたが、原作はその心情描写にページを割いているので最上の気持ちがとてもよくわかり、彼に感情移入できるのだ。その一方で、それを追及する沖野の気持ちも悲壮なほどに伝わってくる。両方が幸せになる方法はないのかとすら考えてしまうほど。

 登場人物の気持ちをもっと知りたいと思ったら、ぜひ原作を読んでほしい。ジャニーズファンは、特に。なぜなら、ジャニーズファンなら小説の中の彼らに別の物語を重ねることができるから。

■〈先輩〉と〈後輩〉の関係に注目してジャニ読みを!

 映画でカットされた部分も含め、原作で最上と沖野の関係がどう描かれているかというと──。 

 最上は実績もあり、上の信頼も篤く、捜査現場の刑事にも信頼されている、いわば地検のエースだ。自分なりの正義感をしっかり持ち、被疑者の口を割らせる技術も高い。そんな最上は沖野にとって、憧れであり、尊敬の対象であり、いつか最上のようになりたいと願う目標だ。最上に教わったことを忠実に守り、最上に認めてもらいたくて懸命にがんばる沖野。

 だがその憧れの先輩が、思いも掛けない行動に出た。沖野の正義感からすれば、信じられないことをした。後輩として、尊敬する先輩の行動に戸惑い、悲しみ、絶望し、そして対決の道を選ぶ。映画はそこで終わっていたが、原作では最終的に、沖野はもう一度最上に寄り添うのである。そこがいいのに。それが見たかったのに。

 これだけでもいろいろ想起させるものはあるんだが、最も注目していただきたいのは、原作のふたりは敵対しつつも互いを思う気持ちを持ち続けている、ということ。最上は自分の選択について後悔はしていないが、ひとつだけ、目をかけていた後輩の沖野の人生を変えてしまったことだけは、悔やんでいる。そしてラスト間際、最上は沖野に向かって、こんなことを言うのだ。

「君はほかの人間を助けてやってほしい。君にしか救えない誰かが、きっとどこかで途方に暮れているはずだ。君が本当に救うべき人間を見つけて、力を注いでやってくれ」

 この映画のキャストが発表されたあとで、キャストを思い浮かべながら原作を再読したとき、この最上のセリフで泣きそうになった。押しも押されもせぬジャニーズのトップスターである木村拓哉が、いろいろあって辛い状況も経て、後輩たちにも少なからぬ影響があって、けれどその上で、後輩の二宮和也に向けて、君は君のファンのためだけを思ってがんばれ、と声をかけているように思えたから。

 原作の最上は単なる悪役じゃないし原作の沖野は単なる正義漢ではない。この先輩と後輩の絆に注目して、ぜひ原作をジャニ読みしてほしい。

【ジャニーズはみだしコラム】

 今や映画にジャニーズが出演するのは珍しくないが、それらの路線とは別に「ジャニーズ映画」と呼ばれる作品群がある。ジャニーズ事務所が企画や製作に関わり、グループ全員が出演するというもので、SMAPの「シュート!」、嵐の「ピカ☆ンチ」などがそれに当たる。最も作品が多いのは「スニーカーぶる〜す」に始まるたのきん(田原俊彦・近藤真彦・野村義男)のシリーズだ。
 これら「ジャニーズ映画」の先駆けが、フォーリーブスの「急げ!若者 TOMORROW NEVER WAITS」(1974、東宝)である。北公次(コーちゃん)、おりも政夫(マー坊)、江木俊夫(トシ坊)、青山孝(ター坊)の4人が主演した青春もので、弟分の郷ひろみ(公開翌年にジャニーズ事務所を退所)も出演。岡田眞澄が出演しているのはトシ坊とのマグマ大使つながりかな?。劇中にはフォーリーブスのヒット曲が多く使われている。
「踊り子」や「ブルドッグ」など、後輩ジャニーズがコンサートで今も歌い継いでいるフォーリーブス。ぜひともDVDにしてほしいのだが。

大矢博子
書評家。著書に「読み出したら止まらない!女子ミステリーマストリード100」など。小学生でフォーリーブスにハマったのを機に、ジャニーズを見つめ続けて40年。現在は嵐のニノ担。

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク

連載記事