松本潤の“麗しきダメ男”という新境地 「ナラタージュ」は原作も必読![ジャニ読みブックガイド第11回]
巡り会えた奇跡がほらこの胸を叩いた皆さん、こんにちは。以前、「リバース」の回でも触れたけど、今やジャニーズが教育界を席巻しております。この秋は映画で生田斗真と松本潤が、ドラマで櫻井翔がそれぞれ教師役。そんな高校あったら今から編入するわ。さて、その中で小説が原作なのはひとつだけ。ということで、もちろん今回のテーマはこちらです。
■松本潤(嵐)主演!「ナラタージュ」
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- ナラタージュ
- 価格:660円(税込)
高校教師の松潤と教え子だった有村架純さんの切ない恋愛模様を描いた映画「ナラタージュ」(東宝)は、島本理生の同名小説『ナラタージュ』(角川文庫)が原作。
大学生活を送る工藤泉のもとに、突然かかってきた電話。高校時代、演劇部の顧問だった葉山先生からで、部員が減ったので客演を頼みたいと言う。在学中から葉山に惹かれていた泉は、久しぶりに母校を訪れる。それは卒業式の日、ふたりの間に起きたある出来事以来の再会だった。再び気持ちが揺れる泉。そんなとき、一緒に演劇部に協力していた他大学の小野が泉にアプローチしてきて……。
というのが原作・映画両方に共通する設定。原作はここから、現在と過去(というか小説自体が主人公の回想なので、すべて過去なんだけど)を行きつ戻りつしながらふたりの間に何があったのかが綴られる。
泉は在学中にとても辛いことがあり、それを救ってくれたのが葉山だった。葉山もまたプライベートで傷を抱えており、泉の存在が葉山を救った。惹かれ合うのは自然だったが、そこから先へは進めない。教師と生徒。さらにふたりの間に横たわるある事情。
心の底では相手を求めながらもふたりは曖昧な距離を保つ。精神的には互いにすがりついている状態なのに、一定の場所から先に進めない、進まない、そのもどかしさが切なくて切なくて、「愛しているのにどうしようもない」という静かな哀しみが全編を覆う。その描写は、誰しも心に持っている「忘れられない思い」を引き出さずにはいられない。至高の恋愛小説だ。
でもね。原作を読んだとき、どうしても拭えない違和感があったのよ。美しくて切なくて身を切られるような感動的な恋だけど、それは確かだけど、でも、あの、えっと、この葉山先生って、はっきり言ってかなりのダメ男だよな?
■文章でしか味わえない、絶品の心理描写
ふたりが結ばれない事情って、よく考えれば、葉山がきっぱり態度を決めれば解決する話なのである。ところがそれはそのままで、泉の在学中は明らかに泉を特別扱いし、卒業式の日にはあんなことまでして、卒業して離れたと思ったらまた呼び出して、自分が弱ったときに一方的に頼るばかりで、教え子に依存して、挙句の果てにベッドシーンの後でいうことがアレ(原作参照)って、いやズルすぎるわ。ダメすぎるわ。たまにかっこいいこと言うからつい騙されるけど、目を覚ませ泉、そいつはダメだ!(だが小野はもっとダメだ)
だけど、ダメだろうが何だろうが、恋ってこういうものなんだよね(遠い目)。葉山は理性の部分では泉にかかわってはいけないとわかっているのに、どうしても彼女を求めてしまう。だから辛い。葉山が態度を決めてくれれば泉は救われるのに、いつまでもちゅうぶらりんのままで、でも泉の気持ちははっきりしていて、これも辛い。離れなくてはいけないと思いながらも互いに求めることを止められない、それをどうセーブするのか、その揺らぎこそが本書の核だ。だからこそふたりの、静かに血を吐くような向き合い方がたまらなく辛く、たまらなく崇高なのである。ダメ男なのに。
この物語はぜひ原作を読んでいただきたい。映画ではかなりエピソードがカットされているし、原作にはない場面が加えられている。映画では酔った葉山が車の中で泉を待つ場面と風邪の泉を葉山が見舞うシーン、そして病院前での葉山の慟哭シーンがとても印象的だが、どれも原作にはない。原作でそれに該当する場面は、もっと淡々としている。淡々としていることが、逆にその裏側に激しいドラマ性を感じさせるのだ。
それは終盤のベッドシーンの丁寧な描写にも見てとれる。泉の視点で、まるで冷静に観察しているかのように詳細に描写されるその行為は、静かだからこそ激しさが伝わる。これは映像ではできない、言葉を費やす文章だからこそ可能な〈芸〉と言っていい。
そうそう、ラストシーンも映画と原作では異なる。原作のラストシーンはものすごくいいぞ! 何年経っても、誰と結婚しても、自分のすべてで愛した人のことは心の片隅に結晶のようにずっと残り続け、決して消えない。そのことがじんわり読者の胸に伝わる絶品のラストだ。これは映画にも入れてほしかったなあ。
■ダメ男を美しく切なく演じる松本潤の新境地!
さて、そんな美して切なくて激しくてやるせないダメ男を松潤が演じるわけで。どうなることかと思ったが、いやあ、実に麗しきダメ男だったよ! すべて受身のくせに他人を振り回す見事なダメっぷり。そして納得した。これは泉でなくても振り回されるわ。放っておけないもん。雨に濡れた子犬が見上げてくるようなもんだもん。
この役を演じるにあたっては、行定監督から「いつもの松本潤を100とするなら40くらいで」という指示があったとのこと。それを知らずに私は映画を見たのだが、確かに「松潤が松潤度を下げてる!」と思ったね。
特にセーブされてたのは眼力。まずメガネで2割くらいシールドし、伏し目がちでさらに5割くらい眼力を下げてる。でも時々、40のはずの眼力が70、あるいは100になる瞬間があるんだよね。車の中から有村架純さんを見上げるところ、バスルームでの格闘、そしてベッドシーン。この3箇所が100の松潤だ見逃すな!
でも、松潤度4割で演じろって、じゃあ松潤でなくてもいいのでは? ──いや、それは違う。最初から4の人が4を出すんじゃなく、本当は10の人が4しか出さないっていうのがポイントなのだ。それは葉山という男が、内面には泉への激しい想いを湛えながら、それをセーブして表面には4割しか出していないということに通じる。それが油断して7出ちゃうこともあれば、思わず10ほとばしらせることもある。それはもともと10持ってなくてはできないことだから。
松潤はどうしても「花より男子」の俺様キャラのイメージが強いが、「陽だまりの彼女」で草食系男子を演じ、ひとつ殻を破った感がある。そして今度は、常に受け身のダメ男。一作ごとに新しい松潤が見えてくるのがとても楽しい。新境地、と呼ぶにふさわしい作品だ。
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2017/11/01
第11回アンケートの受付は終了いたしました。
東野圭吾のデビュー作『放課後』の“不器用”な男性教師、前島先生を演じて欲しいジャニーズには1位が松本潤(嵐)さん。2位は大野智(嵐)さん、3位は二宮和也(嵐)さんでした。
アンケートの詳細は下記からご覧頂けます。
>> 第11回
多くの方のご参加をありがとうございました!
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