大矢博子の推し活読書クラブ
2019/05/08

中丸雄一出演「わたし、定時で帰ります。」で回想する KAT-TUNが成し遂げた「働き方改革」

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 約束の日までありのまま生きて行く皆さんこんにちは。ジャニーズ出演ドラマ/映画の原作小説を紹介するこのコラム、おかげさまで連載50回を迎えました。令和のジャニ読みは、このドラマからスタートだ!

■中丸雄一(KAT-TUN)・出演!「わたし、定時で帰ります。」(2019年、TBS)

 原作は朱野帰子の同名小説『わたし、定時で帰ります。』(新潮文庫)とその続編『わたし、定時で帰ります。ハイパー』(新潮社)だ。残業はしない・有給は消化する、がモットーのヒロイン・東山結衣が、サービス残業の強制やパワハラ、ブラック上司や古い体質の取引先などに翻弄される様子を通し、働くとは何かを描いた物語である。

 原作は連作短編に近い形式で、一話ごとに異なるタイプの社員と結衣の攻防(?)が描かれる。1作目では、休まないことが頑張ってる証だと考える社員、やる気を見せるために育児休暇を返上するワーキングマザー、会社に泊まり込んでる社員、「辞める」が口癖の新人、そして部下を潰すブラック上司。続編ではさまざまなタイプの新入社員を取り上げつつ、マッチョな精神主義の取引先との戦いがメインとなる。

 ドラマでは第4話までに上記の休まない社員・ワーキングマザー・辞めたがる新人・会社に泊まる社員の話が登場。各話のテーマは原作に準じているが、エピソードはいずれもかなり変更されていた。続編に登場するスポーツ用品メーカーをドラマの第3話に入れるといったアレンジだけでなく、全体的にドラマは原作よりも「はっきりした事件」を持ってくる傾向にある。

 たとえば、ドラマ各話で描かれた事件──「休まない女」が出社しなくなるとか、新人が内部の動画を流出させてしまうとか──は、原作には登場しない。原作ではそれぞれの問題がそこまでおおごとにならないよう、結衣や他の社員が奔走する様子が描かれているのだ。そういう意味では、ドラマより小説の方が地味かもしれない。けれどその分、身近でリアルだ。登場人物のセリフひとつひとつに「あるある!」「いるいる!」と机をバンバン叩いてしまう。もう身につまされすぎて身悶えするよ。

 ドラマには(今のところ)登場していないが、実は原作にはとても特徴的な趣向がある。第1作では第二次世界大戦中に日本軍が敢行した「インパール作戦」を、続編では江戸元禄期の「忠臣蔵」を物語の随所に登場させ、今の労働問題と重ね合わせているのである。これが実に巧い。今の若い人が直面している問題は昔から存在していたこと、昔も悲劇的な結末を迎えていたこと、そしてそれをどう教訓にすべきかが、とてもよくわかるのだ。この趣向を味わうだけでも、原作を読む価値はある。


イラスト・タテノカズヒロ

■中丸くん演じる諏訪巧、原作ではこんな人

 原作には個別の事件の他に、全体を通してのサブストーリーがある。結衣の元カレにして上司の種田晃太郎と、ライバル会社の営業マンで今の婚約者・諏訪巧との三角関係だ。元カレの晃太郎はワーカホリックで、婚約時代、両家の顔合わせを仕事ですっぽかし「私との結婚と仕事のどっちが大切なのか」と聞かれ「仕事」と答えた過去を持つ。今カレの巧は仕事よりプライベート優先で、結衣との時間をたっぷりとってくれる。

 この巧を演じているのが、われらが中丸くんである。アウトドア派で多趣味。ドラマでは吉高由里子演じる結衣と一緒に台所に立つ場面や、疲れた結衣をねぎらったり励ましたりする場面が多い。優しくて、いたわってくれて、料理までしてくれるなんて、理想の彼氏ではないか! 中丸くんから指輪をもらえるなんて結衣ってば幸せもの!──と思うところだが、もちろん、そううまくはいかないのである。

 原作もドラマも同じなのだが、結衣が巧の両親に会ったあたりから、「あれ? この結婚、大丈夫かな」と感じさせるエピソードがチラチラ入るようになる。巧は一見、癒し系の和み系だ。はっきり言って、三角関係の設定を見ただけで、序盤から当て馬感がほとばしっている。ところが(まだこの段階では具体的には書けないが)実はけっこうしたたかで油断できないヤツでもあるのだ。癒し系で、多趣味で、ちょっと情けない役どころに見えて、でも実はいろいろ考えてる──これってすごく中丸くんぽくない?

 この先、ドラマがどこまで原作通りに進むかはわからないけれど、原作1作目のラストには、巧についてかなり衝撃的な場面が待っているのでお楽しみに。いや、「お楽しみに」は変かな。「いやあああ! やめてえええ!」ってなるかも。原作ではその場面は露骨には描かれていないけれど、もし映像化されるなら(されないだろうなあ)もしかしたら中丸くんのアレをはずす特技が(以下自粛)。

■KAT-TUNでの「働き方改革」を物語と重ねてみる

 KAT-TUNが結成されたとき、これまでにないクールでトガったイメージが話題になった。それまでのジャニーズでいえば男闘呼組のワイルド路線に近かったけど、でもそれとも少し違うハードな感じ。当初は同期や後輩たちから怖がられていた、というエピソードもよく聞いた。中丸くんも、ピアスとかマニキュアとかしてたよね。ギリギリでいつも生きていたいようなグループだったわけだ。

 けれど中丸くんは、その頃のKAT-TUNと自分を振り返って「迷っていた」と語っている。求められているグループのイメージが自分のキャラと違う、と迷走し模索していた時期があった。そしてKAT-TUNはといえばご存知の通り、メンバーが減り、1年8ヶ月の充電期間を経て昨年1月、3人での再スタートを切った。

 これを会社に喩えるなら。配属された部署が自分に合わなかった。頑張って、無理をして、周囲に合わせていた──ということになる。そこで中丸くんはどうしたか。自分を偽って無理に周囲に合わせるのではなく、自分のカラーを出そうとしたのだ。そのための武器を磨いたのだ。それがヒューマンビートボックスであり、早稲田大学人間科学部の通信課程への入学・卒業であり、ツッコまれてばかりの情報番組やトーク番組への出演であり、自分の趣味を生かしたステージ「中丸君の楽しい時間」である。そうして見事に「中丸雄一」を確立してみせた。もう黒いマニキュアで不良ぶる必要なんてない。

 他の2人も同じだ。いまや亀ちゃんは真面目な性格を隠さないし、たっちゃんは男気溢れる体育会系を前面に出した。決められた枠の中で足掻いて、けれどチームは思ったようにはならなくて、それぞれが「自分にできること」を考えて、シフトチェンジをした。そして今の自然体のKAT-TUNとして再始動した。KAT-TUNはとても素敵な「働き方改革」を成し遂げたのだ。それはhyphenのみんながいちばんよく知ってるよね。

『わたし、定時で帰ります。』の原作小説は、残業しないヒロインと旧来の働き方から抜け出せない人たちを善悪で分けた話ではない。勝ち負けではなく、何が問題なのか、どうすればわかりあえるのか、どうすればみんながハッピーな職場になるのかを問う小説だ。それはそのままKAT-TUNに通じる。いろんなことを乗り越えて、試行錯誤して、そして再スタートした今のKAT-TUNは素敵だ。すごく素敵だ。もしあなたが職場で悩んでいるなら、この小説と中丸くんの存在はとてもいい励ましになるのではないかしら。

大矢博子
書評家。著書に「読み出したら止まらない!女子ミステリーマストリード100」など。小学生でフォーリーブスにハマったのを機に、ジャニーズを見つめ続けて40年。現在は嵐のニノ担。

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