長尾謙杜主演「HOMESTAY」原作と逆のアプローチでテーマをより深めた傑作! 長尾くんの“カラフル”な演技にも注目
ハートの傘に二人並んだ皆さん、こんにちは。ジャニーズ出演ドラマ/映画の原作小説を紹介するこのコラム、今回はAmazon Prime Videoで配信中のこの映画だ!
■長尾謙杜(なにわ男子)・主演!「HOMESTAY(ホームステイ)」(2022年・Amazon Prime Video)
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- カラフル
- 価格:715円(税込)
原作は森絵都のヤングアダルト向け青春小説『カラフル』(文春文庫)。1998年刊行で、これまでも映画化・アニメ化されてきた名作だ。2018年にはタイでも映画化され、また小説は英訳版も出版されるなど国際的な人気を博している。
物語は「ぼく」が天使(映画では「管理人」と呼ばれる)に出会う場面から始まる。どうやら「ぼく」は死んだらしいのだが、その天使(管理人)は「おめでとうございます、抽選に当たりました!」と告げてきた。天使が言うには「ぼく」は生前大きなあやまちを犯して輪廻のサイクルからはずれてしまったが、ある修行をこなせば無事昇天し、輪廻のサイクルに復帰できるらしい。
その修行とは、下界で誰かの体を借りて過ごすことだという。つまり他人の体に魂が「ホームステイ」するわけだ。「ぼく」がホームステイするのは小林真という少年。彼はまもなく死ぬので、その瞬間に彼の中に入って小林真として暮らせというのだが、修行はそれだけではなかった──。
というのが原作・映画両方の導入部である。まだ物語のほんのプロローグなのだが、実は早くもこの時点で原作と映画では大きく話を変えてきた。映画では、ホームステイの最中に「小林真はなぜ死んだのか」を明らかにしろというミッションが下される。100日以内に正解が出せれば、「ぼく」(映画では「シロ」と呼ばれる)の修行は終了、輪廻のサイクルに戻れるが、もしクリアできなければその時点で消滅することになる。
ところが原作では、このプロローグの段階で小林真の直接の死因は天使によって明らかになっているのだ。さらに間接的な死因についても、かなり早い段階で判明する。原作で「ぼく」に与えられたミッションは真の死因ではなく、自分が前世で犯したあやまちを思い出せ、というものなのだ。話の行き先が全然違う。ミステリなら「被害者を探せ」と「犯人を探せ」というくらい違うじゃん!
■逆のアプローチで描かれる、原作と同じテーマ
この時点で映画は原作とは異なる道筋をたどることになるわけだが、じゃあ、映画と原作はまったく別物なのか? そうじゃないから面白い。
ホームステイ先である真の死因を調べる映画と、真の体を借りてはいるもののあくまで自分の前世を知ろうとする小説では、当たり前だが物語の展開は異なる。映画ではまったく前知識のない「ぼく」が真を知るべく家族やクラスメートに接近していくのに対し、すでに情報をもらっている原作の「ぼく」はその情報に基づいて出会う人を判断し、逆に交流を遮断していくのだ。
正反対である。なのに、不思議なことに映画と原作は次第に同じルートをたどり始めるのである。いやあ、この改変の仕方は巧い! 物語を根幹から変えたと見せかけて、気づけば同じようなエピソードを経て、同じゴールにたどり着くのだから。こんな方法があるのか。
だから映画と原作、どちらかをすでに見た/読んだ人も、安心してもう一方を試してみてほしい。すでにストーリーは知っているはずなのに、「え、そんなことがあったの? そこからどうなるの?」という初見のようなワクワクが感じられるから。
周囲の人の設定も工夫されている。原作には生前の真が片想いしていた少女と、しつこくまとわりついてくる同級生の少女が登場する。と書くと映画と同じじゃんと思うだろうが、それぞれの造形も、真との関係も、その人物のエピソードもまったく違うのだ。それなのに彼女たちからどんな影響を受けるかは、同じなのである。家族も然り。特に父親は映画と原作でほとんど共通点がないのだけれど、真が家族に対して何を思い、それがどう変わっていくかという経緯は両方に共通している。
もちろん違いはたくさんある。時折登場して真を導く天使は、原作では常に同じ存在なのに対し、映画では場面ごとにキャラクターが変わる(そのくだりの演出は映像ならでは)。映画では文化祭の準備に合わせて物語が展開するが、原作にその設定はない。さらに映画では終盤に家族がらみで大きな事件が起きるが、それも原作には存在しない。逆に、原作には真に友達ができるのだが、それは映画には出てこなかった。そもそも映画は高校生、原作は中学生だ。
表面的には『カラフル』が原作とは思えないくらい変えているのに、それでも見れば、読めば、わかる。間違いなくこれは『カラフル』だ。原作通りにやるより、改変することでより原作のテーマが強まった感すらある。その改変の妙を味わうためにも、ぜひ両方をお試しいただきたい。
■さまざまな顔を見せる「カラフル」な長尾謙杜に注目せよ!
原作のタイトルは「人には、人生には、さまざまな色がある」という意味を含んでいる。嫌な人だと思っても別の一面があったり、辛いことがあっても行動次第で変わったり。人も人生も一色だけではない。真はそれを知って成長していく。
そしてさまざまな色を持っていることを証明したのが、映画初主演の謙杜くんだ。この映画では「本来の小林真」と「シロの魂が入り込んだ小林真」を演じ分けなくてはならない。鬱屈した、うつむきがちな、内に閉じこもった真と、修行のためにあれこれ行動し、あまつさえ憧れの先輩とおしゃれしてうきうきデートしちゃう快活なシロの真。うわあ、別人だ。はっきり別人だ。一人二役だ。
さらにシロの魂が入った真は、はじめこそ明るかったものの、本来の真の鬱屈の原因を知ってからは同じように苦しんでいく。ふたりの境界が次第に曖昧になり、シロの瞬間と真の瞬間が混じり合い、いつしかひとつになっていく。その過程をごく自然に見せてくれるので、見ている側は物語にすっかり取り込まれ、「あの結末」がストンと腑に落ちるのである。
謙杜くんは松本潤主演のドラマ「となりのチカラ」(2022年・テレビ朝日)にも出演。そちらでは大学受験を控えながら認知症の祖母を献身的に介護する高校生という難しい役を演じた。そしてこれまた、「HOMESTAY」とはまったく違う色を見せてくれたことは記憶に新しい。
映画の中で、謙杜くんはふたり分の感情を──懊悩、喜び、戸惑い、照れ、怒り、諦め、愉しみ、慟哭を表現した。ふたりを演じ分け、それを統合してみせた。さらにドラマでは、愛情と自己犠牲とエゴの狭間で揺れ、憔悴し、絶望と孤独を抱えた少年が解放されるまでを見事に演じた。いったいいくつの顔を持っているのか。千の仮面を持つ少年か。謙杜……おそろしい子!
なお、2000年に日本で初映画化されたとき主人公・小林真の母親役を演じた阿川佐和子さん(今回の作品にも出てた!)が、文春文庫に巻末解説を寄せている。その中で、当時の小林真役の俳優についても触れているので、興味のある人はチェックしてみてほしい。読者に先入観を与えないため俳優名は伏せられているが、覚えている人は多いはずだ。2000年版は原作に沿った構成なので、DVDで見比べてみるのもいいかも。
大矢博子
書評家。著書に「読み出したら止まらない!女子ミステリーマストリード100」など。小学生でフォーリーブスにハマったのを機に、ジャニーズを見つめ続けて40年。現在は嵐のニノ担。
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